作家・室井佑月氏は、利権重視の後追いしようとしないマスコミの報道姿勢に憤る。

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 この原稿を書いているのは7月31日。都知事選の投開票日だ。まだ結果は出ていない。

 マスコミの世論調査が正しければ、あの方が都知事になるんだろう。都議のボスと喧嘩し、現代のジャンヌ・ダルクといわれるあの方だ。

 でもさ、あの方、政治とカネに関してはグレーだよね。結構、そのことに関しては週刊誌に書かれていた。

 けれど、そのことに関し、テレビはスルー。ライバル候補の大昔の女性関係はネチネチ責めたのに。

 てか、あの方、日本会議国会議員懇談会の役員で、ヘイト団体主催の講演会に出たりしていた。けど、このことは政治とカネの問題よりヘビーだから、テレビどころか週刊誌だってあまり騒がない。

 

 今後、問題になるとすれば、政治とカネの問題をほじくり返されてなんだろう。だって、前任の舛添さんはそれが問題で辞めさせられているのだし。

 さあ、これからどうなる?

 あたしはまたまた週刊誌に書かれる程度で終わるんだと思う。それが、舛添さん以上の問題だったとしても。きっと、「ふたたび50億円かけて都知事選をやるのかよ!」

 という声がどこからか届いてくる。

 その声は巷の空気と呼ばれているけど、ほんとのところはわからない。巷の空気を作ったり利用している人たちがいるみたいだし。

 とにかく「ふたたび50億円をかけるの?」という掛け声で、しばらくあの方の政治とカネの問題はなかったことにされるかも。

 おなじことをしていても、ぶっ叩かれるかぶっ叩かれないかはその時による、ってのはおかしい話だと思う。

 ほんとうは、はじめにそういう疑惑があがったとき、きちんと追及しなかったメディアが責められなきゃならない話だ。

 が、そうなっていない。あたしは、そこが間違っていて、そこから正していくべきだと思う。

 たとえば、東京電力は、福島第一原発事故による賠償や除染費用が想定を上回る可能性が高まったとして、政府に負担を求める方針を明らかにした。

 原発事故の賠償費用は6兆円を超え、除染費用も2兆5千億円を超えそうだ。

「原発はクリーンでいちばん安価なエネルギー」っていってたのにさ。

 ほかにも夢のリニア新幹線。リニアの建設費、国が3兆円規模の融資をするっていっている。これって回収できるの? 現在の新幹線の乗降客を見れば、そんなの絶対に無理だと思う。

 多くのマスコミは、目先のカネのため、はじめの宣伝に手を貸す。その後はしらんぷりか、問題が起きると言い訳程度の報道をちょろっとするだけだ。

 あの時、自分たちはなぜ、どんな風に利権に手を貸したのか、そしてその結果、国民を騙すことになり、国民に多大な負担を押し付けることになったのか、きちんと検証すべきだよ。 

週刊朝日 2016年8月19日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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