種田陽平美術監督。映画「スワロウテイル」(1996年)、「THE有頂天ホテル」(2005年)、「フラガール」(06年)ほか、「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」「思い出のマーニー×種田陽平展」などの展覧会、『ステラと未来』など書籍も手がける(撮影/写真部・長谷川唯)
種田陽平
美術監督。映画「スワロウテイル」(1996年)、「THE有頂天ホテル」(2005年)、「フラガール」(06年)ほか、「借りぐらしのアリエッティ×種田陽平展」「思い出のマーニー×種田陽平展」などの展覧会、『ステラと未来』など書籍も手がける(撮影/写真部・長谷川唯)

「観たこともないような中国映画を作りたい。ぜひ力を貸してほしい」
 
 実写映像やアニメの中に、オリジナリティー溢れる時空間を創出する、日本を代表する美術監督である種田陽平さんのもとに、そう依頼があったのは、2012年春のことだ。ハリウッドで活躍する香港出身のラマン・ホイ監督が、「故郷のための映画を」と企画したのは、モンスターが人間と共生する世界だった。

「当初は、妖怪たちのキャラクターデザイン以外は何も決まっていませんでした。監督の希望は、“オーガニックな映画にしたい”ということ。架空の時代が舞台で、時代考証の必要がない分、自由度は高かったのですが、妖怪の住む世界、人間の住む都市の二つの空間を細部まで描き出すのに時間はかかりました(苦笑)。最終的に、妖怪たちの世界はすべて曲線だけで作って、都市では直線は使いつつも、実際の中国の街ともまた違った雰囲気に仕上げています」

 準備と撮影期間を合わせて、ほぼ1年半中国に滞在。編集期間は日本に帰って、「思い出のマーニー」の準備に取り掛かった。15年に公開された「モンスター・ハント」は、中国全土で24億元(約430億円)と、歴代興行収入1位(当時)の記録を打ち立てるほどの特大ヒットとなった。

「ここ数年は、子供たちのためのモノ作りができていたことが幸福でした。大人が童心に帰れるような、イノセントな作品に関わることは、難しいけれどやりがいがある。『モンスター〜』を中国の映画館で観たときは、大人も子供も関係なく、誰もがゲラゲラと笑っていました。その光景は、僕が子供の頃の日本の映画館の雰囲気とよく似ていました」

次のページ