津田大介「必要とされる実名報道とは何か」 (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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津田大介「必要とされる実名報道とは何か」

連載「ウェブの見方 紙の味方」

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批判されているのは実名報道そのものではなく…(※イメージ)

批判されているのは実名報道そのものではなく…(※イメージ)

 日本人に多数の犠牲者が出た13年のアルジェリア人質事件や、先月のバングラデシュのテロ事件で被害者の実名が当初公表されなかったのも、こうした人々の意識の変化が背景にある。

 実名報道抑制の流れに対して、マスメディアの記者たちが異論を述べ、それに対してネットユーザーが大挙して非難するコメントを寄せ「炎上」させる事例も、ウェブ上の風物詩になった。

 事件の全貌(ぜんぼう)を多くの読者にリアリティーをもって伝えるという意味で、確かに実名報道は重要な要素だ。しかし、時代は変わった。実名が「必須」ではないということを考える時期に来ているのではないか。

 報道の自由度ランキング世界一のフィンランドのマスメディアは事件報道の際、よほど重大な事件でない限り、加害者も被害者も実名報道はしない。今回のケースのように遺族が公表を希望しない場合、それを無視してまで伝えるだけの公共性があるのか、十分に精査されなければならない。

 6月13日、前日に起きた米オーランド銃撃事件を受け、CNNの看板キャスター、アンダーソン・クーパー氏は事件現場となったクラブ前で現場リポートをした。その際、クーパー氏は犠牲者48人の名前と写真を画面に映し、取材でわかった彼らの人となりや人生を嗚咽(おえつ)交じりで言葉を詰まらせながら紹介。この様子を見た多くのツイッターユーザーが共感の声を寄せた。

 マスメディアの人間は、実名報道の意義を上から目線で語る前に、クーパー氏の「実名」報道がなぜ多くの人の心を打ったのか、考えたほうがいい。実名報道そのものが批判されているのではなく、過熱取材も含めた事件報道のあり方が問われているのだ。

週刊朝日 2016年8月12日号


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津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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