津久井やまゆり園の全景 (c)朝日新聞社
津久井やまゆり園の全景 (c)朝日新聞社

 7月24日、相模原市を流れる道志川の清流は真夏の日差しにキラキラ輝いていた。河川敷に2人の男性がいた。地元の中学の同級生同士。一人は日光浴をし、肌を焼いていた。

 その背には、和彫りの入れ墨。おかめの面が割れ、般若のいかめしい形相が描かれている。多弁で、愛嬌のある笑顔を見せるこの男こそが、同市在住の植松聖(さとし)容疑者(26)だった。

 もう一人の友人は「あの日、事件につながることは何も言っていなかったし、そんな素振りもなかった」と振り返る。だが、このときすでに犯行の計画を頭に描いていたのかもしれない。

 事件はその2日後の26日未明に起きた。

 午前2時ごろ、同市緑区千木良(ちぎら)の障害者施設「津久井やまゆり園」に男が侵入し、入所者を次々と刃物で刺した。19人が死亡、26人が重軽傷を負った。被害者のほとんどが自らを守る術を持たない重度障害者の人々だった。

 男は施設内を移動しながら、約50分の間に45人もの入所者らを次々に襲い、現場を立ち去った。

 事件からしばらくして施設に駆けつけた女性職員の目に飛び込んできたのは、まさに“地獄絵図”だった。

 刺された入所者たちが心肺停止状態でベッドに横たわったままになっている。口や頰が血だらけ。ふとんはもちろん、床にまで真っ赤な血だまりができていた。壁に鮮血が飛び散り、天井にも血しぶきが飛んでいた。生臭い空気が充満する中で、九死に一生を得た人たちは、怯えて身を硬くしたり、床に座り込んで呆然としたり……。

 あまりの凄惨さに女性職員は息をのんだ。救急隊員が「こんな光景は見たことがない」とつぶやく声が聞こえた。放心したようにふらふらと歩を進めると、身を震わせて嗚咽(おえつ)する当直職員に出会った。

「あいつだよ……」

 当直職員は声を絞り出すように言った。

 女性職員はすぐに植松容疑者のことだとわかった。

 植松容疑者は、やまゆり園の元職員だった。今年2月ごろから「障害者は死んだほうがいい」などと暴言を吐いていた。園側が2月19日に緊急面談すると、植松容疑者は「障害者は周りの人を不幸にする。いないほうがいい」。「それはナチスの考え方と同じだよ」と諭したところ、辞表を出した。

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