西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、新運用基準が適用されたばかりのコリジョン(衝突)ルールを、旧運用基準と比較しながら詳しく解説する。

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いろんな議論が噴出していたコリジョン(衝突)ルールの新運用基準が22日からスタートした。これまでも指摘してきたが、選手も球団も審判員も、そして見ているファンの方々も、誰もが「このままでは良くない」と思っていただけに、迅速に運用基準を変更したことは歓迎したい。

 新しい運用基準といっても、本来の条文にあるルール通りであることに変わりはない。旧運用基準と違う点は一つ。従来は「捕手(守備側)が捕球するために走路に侵入した」というケースを「侵入したら駄目」と厳格に適用してきたが、新運用基準では「やむなき侵入は適用外」とした。これで非常にわかりやすくなる。

 本来の「守備側のブロック」と「走者の体当たり」に焦点がいくため、明らかにアウトのタイミングなのにコリジョン適用でセーフになるといったこともなくなるはずだ。体当たりやブロックという接触につながるプレーが起きなければ、同ルールが適用されることはない。これで、アウト、セーフの判定を素直に下すことができる。

 ではなぜ、開幕当初からこうしなかったのか。「走路への侵入」を厳格に禁じることで、接触につながるあらゆる危険性を排除したかったこと、また「走路に侵入したかどうか」との客観的な事実をもとに判定することで、判定のグレーゾーンを狭めたかったことなどが挙げられるだろう。しかし、接触への注意喚起という点では目的を十分に達成したし、日本選手の気質からすれば、激しい衝突を起こそうという選手もいない。実態に即して変更するのは当然の流れだった。

 ただこの変更でも、盲点がある。例えば、外野手が本塁に送球する際、わざと走者の側に投げ、捕手が捕球のために走路をふさいだ場合はどうするか。新基準では、見過ごされることになる。

 
 また、焦点が「体当たり」と「ブロック」となることで、今度は何をもって「体当たり」や「ブロック」とするかが注目される。そのすべては審判員の裁量であり、判断になる。それゆえ、一番重要なことは審判員でしっかりと共通認識を持つことだ。審判Aではブロックとみなされ、審判Bではブロックでないとされるなら、また混乱が生じる。人間だから多少の違いが出ることは仕方がないが、審判ごとの判定の差を狭める努力をする必要がある。ストライク、ボールの判定でなく、本塁上の攻防は勝敗に直結する。審判の判定にリスペクトを持てるようにならないと、野球というスポーツは成り立たないからね。

 球団、現場もしっかりと認識を深めてもらいたい。いくら審判員が正確を期そうとしても、現場の理解に差があれば、無用な抗議や混乱につながってしまう。

 それにしても、本当に良かったよ。6月14日の広島-西武戦では、コリジョンルール適用によってサヨナラ決着した。1勝の重みが増す後半戦、そしてクライマックスシリーズで同じような判定が下ったら、暴動が起きたかもしれない。選手たちの間では、1年もたたないうちに運用が変更されて戸惑いが生じるかもしれない。だが、いつかは変更すべきものだったわけだし、やるなら早いほうがいい。

週刊朝日  2016年8月5日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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