オールスター戦に打者として出場し、初MVPに輝いた大谷翔平。大会前には投手でなく打者で参戦することで出場が危ぶまれていたが、西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、「規格外」の選手が現れた今、ルールを変える必要があるという。

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 プロ野球の前半戦が終了。7月15、16両日はオールスター戦だ。本欄執筆には間に合わないが、日本ハムの大谷翔平投手が出場できることになったことは素直に歓迎したいよね。

 パ・リーグ先発投手部門ファン投票1位で選出されたが、10日のロッテ戦で右手中指のマメをつぶし、投手としての出場は無理となった。野球協約の規定では、球宴の出場を辞退した選手は、後半戦の最初の10試合に出場できない。辞退していたら、大きな痛手だった。聞くところによると、野手として出場することについては、日本ハム以外の11球団の了解も得られたという。

 ファンの中には、公平性やルール順守という観点から「野手での出場はおかしい」と考える人もいるかもしれない。しかし、そもそも野球協約の規定は、出たくないという選手にペナルティーを与えることが目的だ。大谷は「投手は無理でも、野手で出られれば」と考えたのだろうから、ペナルティー回避という見方をしたら、かわいそうだよ。

 もし、「投手で選ばれた以上、投げられないなら辞退すべきだ」という厳格な声が強かったとすれば、大谷は無理して投げたかもしれない。でも、思い切り腕を振れない姿を見たいだろうか。選手にも酷だよ。

 大谷はホームランダービーに第1戦、第2戦ともファン投票で選出されていた。それだけ「大谷を見たい」というファンの声があったわけだ。前半戦の打者としての活躍をみても、野手での出場を認める判断は正しかった。

 来年以降、投手がマメをつぶして「ペナルティーは受けたくないから代打で」などと考えたとしても、大谷のように打者として質の高いパフォーマンスを出せるわけがない。だから、今回の件が“あしき前例”になることもあり得ないよ。

 
 ただ、日本野球機構(NPB)は、「投手」「野手」という枠にとらわれない“規格外の選手”が出てきた以上、いろいろと取り決めておく必要がある。

 例えば、「投手とDHでファン投票1位だった場合」にどうするか、などだ。単純に「得票数の多いほうのポジションで選出とする」という方式にすると、片方の1位票は、意味がなくなってしまう。大谷のためのルール作りは来年以降、必要不可欠だろう。

 さて、球宴前、パ・リーグを指揮するソフトバンクの工藤公康監督は投手陣に対し、「直球にこだわらなくていい。変化球をどんどん投げてください。3球に1回くらいしか直球を投げない人は変化球をコーナーに曲げて。そういうのもプロの技だと思う」と話したという。

 私も毎年のように言ってきたことだ。技巧派の投手も直球勝負をするケースが目立ち、しかも打たれて笑っている姿を見るのが許せなかった。球宴とは、それぞれの選手の技術がぶつかり合う場でもある。お祭りといえども、勝負である以上、勝つべきだ。負けていい試合など一つもない。高いお金を払ってきてくれるファンのためにもね。

 実際にオールスターを見た野球ファンは喜んでくれただろうか。ペナントレースは、セ・リーグが広島、パ・リーグはソフトバンクが2位にかなりの差をつけての後半戦だ。他球団が首位チームにどんな包囲網を敷くか。意地を見せてほしい。

週刊朝日 2016年7月29日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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