ほかにも生前退位には細かな課題がある。たとえば、退位した天皇はどこに住むのか。仮に京都に住めば、関西では退位した天皇の人気が高まるかもしれません。住む所を決めるだけでも、細心の配慮が必要です。

 それと同時に、NHKの報道で天皇の意向が明らかになったことに、違和感があります。

 天皇自身が生前退位の意思を示せば、問題が噴出することはNHKもわかっていたはずです。憲法上、天皇は政治的な発言をしてはいけません。小泉政権で女性・女系天皇を容認する議論が出たときは、政府主導で話を進めて、表向きは天皇は何も発言していません。

 それが今回は、先に天皇の意思が示され、政治がそれに従う流れになっています。これは天皇自身が政治的発言をしたことになり、憲法に矛盾する行為になりかねません。

 一方で、逆の懸念もあります。政治家が「天皇の意思」を利用し、天皇の政治的発言が禁じられた憲法を改正する動きが出てくることです。一連の報道は、そういった危険性をはらんでいると言えるでしょう。

週刊朝日 2016年7月29日号