放送大学教授の原武史さん (c)朝日新聞社
放送大学教授の原武史さん (c)朝日新聞社

 13日、天皇陛下が「生前退位」の意向を示しているとNHKが報道した。放送大学教授(日本政治思想史) の原武史氏は、この報道によって天皇の政治利用につながると危惧する。

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 第一報を知ったときは衝撃を受けました。

 一つは、明治以降の天皇制のあり方が変わります。現在の天皇制の源となった明治時代は、西洋列強に対抗するために、強力な君主が必要とされていた時代でした。そこで当時の中国を参考にして一世一元の制を取り入れ、退位もできないようにして、天皇に権力を集中させようとした。時代の要請でもありました。

 しかし、これは日本古来の天皇制とは異質なものです。古代から江戸時代までは生前退位がしばしばあり、元号もよく変わっていた。つまり、生前退位が認められることは、より柔軟な天皇制に回帰することを意味します。

 二つ目は、次の代の天皇制の行方です。皇太子が天皇になれば、おそらく秋篠宮が、現在の皇太子にあたる「皇太弟」のような地位になるでしょう。秋篠宮家には悠仁親王(9歳)がいますので、皇太子のお世話をする宮内庁の「東宮職」は、現在の秋篠宮家に移ります。これは、現在の東宮家と秋篠宮家が対等な関係になるということです。

 さらに、天皇が退位して、上皇のような地位になれば、皇室に「三つの中心」ができ、不安定化する要素になるかもしれません。もっとも、生前退位が認められれば、天皇が「皇太弟」にすぐ譲位することも可能になると思います。

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