速水健朗(左)はやみず・けんろう/1973年生まれ。ライター、編集者。石川県出身で、コンピューター誌の編集を経て、現在はフリーランスとして活動中。専門分野は都市論、メディア論、団地研究など池田利道いけだ・としみち/1952年生まれ。2011年に一般社団法人「東京23区研究所」を設立し、所長を務める。まちづくり支援の仕事をしながら、23区のデータ分析などを手がける(撮影/写真部・長谷川唯)
速水健朗(左)
はやみず・けんろう/1973年生まれ。ライター、編集者。石川県出身で、コンピューター誌の編集を経て、現在はフリーランスとして活動中。専門分野は都市論、メディア論、団地研究など
池田利道
いけだ・としみち/1952年生まれ。2011年に一般社団法人「東京23区研究所」を設立し、所長を務める。まちづくり支援の仕事をしながら、23区のデータ分析などを手がける
(撮影/写真部・長谷川唯)

 ヒト、モノ、カネや情報が集まる東京。しかし、東京のなかでも格差の拡大や人気エリアの変化がみられる。都内でどこに住むべきなのか? 一般社団法人「東京23区研究所」所長の池田利道氏と『東京どこに住む?』の著者で都市論や団地研究などを専門とするライターの速水健朗氏が、現在の東京の魅力を語った。

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池田:速水さんの新著『東京どこに住む?』、たいへん興味深く読みました。

速水:執筆にあたって、池田さんの『23区格差』から多くの示唆を得たんです。特に「新陳代謝のある街がいい街」という視点に大きな影響を受けました。

 日本人はある土地に根付くことを美徳とする固定観念を抱き、縛られているのではないか。そんな違和感がくすぶっていたんです。街の変化にもネガティブな印象を抱く人が少なくない。

池田:新陳代謝のある街とは、転入・転出が活発な街です。新陳代謝が活発になると、街の中が常にかき混ぜられているような状態となり、街の活力が再生産されます。

速水:若い人々をひき付ける魅力を街が放つようになり、結果として高齢化の進展が抑制される、と指摘されていましたね。

池田:街の新陳代謝をみる一つのポイントは、良質な賃貸住宅の有無です。バラエティー豊かな賃貸住宅がそろう街は、活発な新陳代謝が存在しています。

速水:従来の価値観だと、東京の居住地の人気エリアは西高東低。渋谷か新宿へつながる私鉄沿線やJR中央線の新宿─吉祥寺間など西側に集中し、東側はあまり人気が高くなかった。

 山手線の内側は働く場所で、住む場所ではないとの認識も強かった。結婚したら郊外に引っ越し、広めのマンションか一戸建てに住む。すると、環境もよく、子育てにもよいとの固定観念があった。でも、そういう価値観はどんどん崩れていると思います。

池田:郊外で子育てを終えた壮年世代が家を売り、港区や中央区の臨海地区のマンションへ引っ越す都心回帰の動きもありますしね。

速水:主に若い人たちの間で、「職住近接」「食住近接」の視点で住む場所を決める志向も高まっています。通勤が楽で、終電を気にせずに夜遊びもできる。家賃が多少高くても職場に近い都心エリア(皇居から半径5キロ圏内程度)に住む人が増えています。

 例えば、落ち着いた住宅街によい雰囲気の飲食店がある谷中・根津・千駄木──いわゆる「谷根千」など、山手線の内側が人気です。蔵前や人形町など、個性的な個人飲食店がある東京の東側にも、若い人が集まり始めている。こうした現象は、新しい都心の生活スタイルだと考えています。

池田:東京の郊外に家があると、小1時間は満員電車に揺られての通勤。そうなると、仕事と生活の場所が明確に分かれ、オンとオフが区別されてしまう。

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