作家・室井佑月氏は、週刊朝日で連載中のコラム『しがみつく女』で、国民はいつも馬鹿にされ負け続けていると憤る。

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 このコラムがみなさんの目に触れる頃には、参議院選は終わっている。

 わかっていることはひとつ。たぶんほとんどの人間が負けた。それは選挙の報道をみればわかる。

 ぜんぜん盛り上がらなかった参議院選。

 きっと、はじまる前から、我々有権者は馬鹿にされ負けていた。

 参議院選の報道が極端に少なかったのは、

「どうせあんたら、考えたって仕方ないでしょ」

 そういわれているのとおなじこと。

 参議院選の最中は、イギリスのEU離脱と都知事選・小池の乱と、目黒切断遺体事件の話題で盛り上がっていた。

 国民投票でイギリスがまさかのEU離脱となったことに対して、

「だから、国民投票なんて駄目なんだ」

 といっていたコメンテーターがいたっけか。

 参議院選を報道しないこともおなじ理由か。

 国民に考えさせても無駄。馬鹿なんだから。この国のエリートが未来の筋道を立てておる。馬鹿はうるさいこといわず黙ってついてくればいい、って感じであろう。

 エリートも間違うことはあるのにな。歴史を遡れば、いろんな場面で間違っている。

 そして、間違ってしまっても、彼らは責任を取らない。金も力もあるから、結果が出る少し前に逃げきることも可能。尻拭いは、逃げられなかったその他大勢が引き受けることになる。

 この件についてもおなじか。「原発汚染土『8000ベクレル以下』なら再利用を決定」(6月30日付毎日新聞電子版)

<東京電力福島第1原発事故に伴う福島県内の汚染土などの除染廃棄物について、環境省は30日、放射性セシウム濃度が1キロ当たり8000ベクレル以下であれば、公共事業の盛り土などに限定して再利用する基本方針を正式決定した>

 ちなみに、5000ベクレルの廃棄物が100ベクレル以下まで低下するには170年かかるらしい。だが、盛り土の耐用年数は70年だ。

 じつはこの数字、環境省が非公式会合で出していたというから驚く。なのに、なにがしたいんだ?

 
 この国は地震の活動期に入っている。汚染土の上にアスファルトなどを50~100センチ以上かぶせるから大丈夫だといっているけど、地震によって決壊したら、どうやって汚染土を回収するのだ。付近の川や海も汚れるだろう。それらを除染するには、盛り土どころじゃない、莫大な金がかかると思われる。

 ま、こういうことを決める人々は、そこまで考えちゃいないわな。俺らはその付近に住まないし、情報は真っ先につかめるから危ない目にも遭わないし、ってなもんか。

 まさか、あたしたちの命や健康と引き換えに、利権や汚い金が動いていたりしていないよね? ここまで疑わなきゃいけないって、ほんとに疲れる。

週刊朝日  2016年7月22日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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