このように、炎症が治まったように見えた後も抗炎症外用薬をしばらく使い続ける治療法を「プロアクティブ療法」と呼ぶ。プロアクティブ療法は、今年2月改訂の日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」で、再燃を繰り返すアトピー性皮膚炎の治療法としてはじめて推奨された。

 アトピー性皮膚炎の炎症を抑えるには、現時点ではステロイド外用薬が最も効果が高い。しかし長期に、あるいは頻繁に使い続けると、皮膚が薄くなるなどの副作用のリスクが高くなる。そのため、これまでの治療は、湿疹が悪化したときにのみ使う「リアクティブ療法」が主流だった。

 しかし強い炎症のある中等症以上では、見た目には治まったように見えても皮膚の内側に炎症が残っていることが明らかになってきた。この時点で塗布を中止すると、くすぶった炎症が容易に再燃してしまう。

 プロアクティブ療法は、皮膚の内側に残った炎症が十分に治まるまで抗炎症外用薬を週2回程度に減らしながら使い続ける。リアクティブ療法に比べて再燃回数が少ないことが、多くの臨床研究で示されている。

 前出の国枝さんは退院後、入院中は1日2回だったステロイド外用薬を1回に減らして使用。2週間後には2日に1回に減らした。その後頻度を下げたが再燃は起こらず、半年後には2週間に1~2回の使用まで減らすことができた。ここ1年、ステロイド外用薬なしで再燃を防げている。

 診療ガイドラインの改訂に携わった京都府立医科大学病院皮膚科の加藤則人医師は、次のように話す。

「中等症以上で再燃を繰り返す場合は、アトピー性皮膚炎の診療に精通した医師のもとで、プロアクティブ療法を選択肢の一つとして考えるのもいいと思います」

 もちろん、軽症の場合はリアクティブ療法で十分効果が期待できる。

 プロアクティブ療法では用いる薬の選択や塗布の頻度、どの段階でプロアクティブ療法に移行し、いつまで継続するかなどは医師の判断に任せられている。安全性も含め、皮膚の状態を医師に評価してもらいながらおこなうことが大切だ。患者の病態は一人ひとり異なり、季節や生活状況によっても変わる。薬の量を変えたら、その効果などを検証しながら次のステップに進む必要がある。

 医師の指導のもと長期的な治療を実現するため、新たなガイドラインでは治療の「アドヒアランス」の重要性も盛り込まれている。アドヒアランスとは、患者が病気や治療の意義について十分に理解し、治療方針の選択に参加し、その決定に従って自身が積極的に治療を継続することを指す。

「アトピー性皮膚炎の治療では、医師と患者の二人三脚がなにより大切です。信頼できる医師を選び、なんでも相談できる環境にしておきましょう」(加藤医師)

週刊朝日  2016年7月15日号より抜粋