有名企業の経営者の名前をあまり見かけない理由は?(※イメージ)
有名企業の経営者の名前をあまり見かけない理由は?(※イメージ)

 2004年まで毎年、税務署より高額納税者が発表され、長者番付として大きな話題を呼んでいた。松下幸之助や本田宗一郎など世界的企業の経営者はもちろん、現在も活躍する孫正義や三木谷浩史なども名を連ねる。しかし、意外なことにトヨタ自動車を筆頭に有名企業が出てこない。『日本の長者番付』(平凡社新書)の著者で経済学博士の菊地浩之さんにその理由を聞いた。

■資産を保てる同族会社

 番付上位を振り返ると、東芝、東京電力、新日本製鉄など、経団連会長が輩出した有名企業の経営者の名前をあまり見かけません。

 経営者の報酬はかつては今ほど高くありませんでした。有名企業は株式を持ち合うことで安定株主を得ており、社長が多くの株を持つ必要もない。社長として権威や名誉を得ても、巨額の富を築くことにはならなかったのです。

 松下幸之助は番付上位の常連でしたが、パナソニックと並ぶ大企業のトヨタ自動車トップの名前は、見かけません。一因は、創業者の豊田喜一郎が52年に57歳の若さで急死したためと思われます。相続税の支払いで保有財産が大きく減り、長寿だった幸之助ほどには富を蓄え続けられなかったと考えられるのです。

 資産形成の面からみると、同族企業の存在の大きさを感じます。大正製薬の上原家を始め、ブリヂストンの石橋家、鹿島建設の鹿島家、出光興産の出光家など。

 今は同族経営を脱した企業もありますが、長年の世襲で経営権と財産を受け継いできました。石橋家と鳩山家、上原家と大平家など、資産家と名門政治家が婚姻関係を結んだことも知られています。首相誕生には、資産家の財力が支えになったとも言われます。

 戦後億万長者の顔ぶれを振り返ると、日本を支えてきた産業の盛衰、税制改正などの時代の変化がくっきりと映し出されるのです。

週刊朝日  2016年7月15日号より抜粋