作家・室井佑月氏は、参院選前のテレビでの党首討論会について持論を展開する。

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 なぜ参議院選挙公示後に、テレビの党首討論会は1回だけしかやらないのか。大事な選挙が行われるというのに。党首たちのやりとりを見て、投票先を決めたいという有権者だっているだろう。……ということを考えていたら、6月24日の朝日新聞デジタルに、

「公示後のテレビ党首討論1回だけ 見えない政見、背景は」

 という記事が書かれていた。ズバリ、タイトル通りの内容だ。

 じつは、公示前日の「報道ステーション」で開かれた党首討論でも、この話が出た。

 司会者が番組の中で、安倍首相に再度の討論会を呼びかけた。

 安倍さんは、

「期日前投票が増えた。その前に議論を終えておくべきだ」

 と答えた。ほかの党首は乗り気だったけど。

 ちなみに、公示後に開かれた討論会は、TBSの「NEWS23」の1回だけ。

 べつに公示前もやって、公示後もやればいいじゃん。

 新聞の記事には、自民党側が安倍首相の遊説日程などを理由に、出演は公示前後の1週間にしてくれといってきたと書かれていた。

 このことを取材したら、

<多くのテレビ局は「番組制作に関わることなのでコメントは差し控える」などと回答>

 安倍政権がおっかないから? だが、一部の人はこう答えたらしい。

<ある民放幹部は「参院選や政治状況に視聴者の関心を引きつける要素があまりない」とみる。「党首討論をやっても視聴率がとれないということなら、現場もそれを気にする」>

 え? つまり、報道の役目を捨てた?

 選挙がはじまると、テレビでは「選挙に行きましょう」という呼びかけだけはする。あれって嘘なの?

 選挙に視聴者の関心を引きつける要素があまりないっていうなら、こういうときにこそ視聴者の興味を煽る放送をするべきでしょう。

 それに、視聴率うんぬんより、国民に知らせなきゃならないことを知らせるって役目のほうが重要だ。なぜそこを忘れてしまう?

 
 安倍政権への忖度だな。やっぱ、あのことが関係しているのだろうか。記事にはあのことも書いてあった。

<選挙報道をめぐっては、14年の衆院選前、TBSの「NEWS23」に出演した安倍首相が街頭インタビューが偏っているとして、番組中に「おかしい」と批判。その後、自民がNHKや在京民放テレビ5局に、選挙報道の「公平中立」を求める文書を送った。今年2月には、高市早苗総務相が放送法4条の「政治的公平」の規定を根拠に放送局の電波停止を命じる可能性に言及>

 結局、テレビ局は、面倒臭いことは厭なのね。

 党首討論こそ、毎日4時間スペシャルくらいでやるべきよ。全国を遊説で飛び回るより多くの人に訴えられて、効率もいいだろうに。討論下手のあの方の我儘(わがまま)にしか思えない。

週刊朝日  2016年7月15日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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