子どもの習い事に月10万円…(※イメージ)
子どもの習い事に月10万円…(※イメージ)

 そこそこ収入があるのに貯金できず、将来貧困に陥る恐れがある。そんな中流家庭の危機を、経済ジャーナリストの荻原博子さんが著書『隠れ貧困』(朝日新書)で紹介している。荻原さんはこう警鐘を鳴らす。

「貯金できない中高年世代は、決して珍しくない。最近の親は、子にお金をかけなければと『教育恐怖』のような強迫観念を抱く人がいる。子どもにお金をかけすぎると、ためられない。年収800万円の家庭でも老後破産がありうる」

 金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(2015年)」によると、40~50代の約2割が手取り収入から貯蓄をできていないという。

 荻原さんの見方はこうだ。

「この世代はおつきあいの出費が若い人より多く、収入がそこそこあっても貯金できない。給与カットや早期退職の対象にもなりやすい。さらに、50歳前後の『アラフィフ』世代は、社会人になりたてのころにバブル経済を経験した影響も大きい」

 バブル期の1988年に創刊された女性誌「Hanako」(マガジンハウス)で、荻原さんはマネー問題の連載を持っていた。

 雑誌のキャッチコピーは「キャリアとケッコンだけじゃ、いや。」。こうした思いに共感する読者のお金の悩みに、10年間接してきた。「家庭に入るだけでなく、人生を謳歌したい!との夢を読者は抱いてきた。夢が覚めぬまま、家計を直視せずに貧困に陥る人もいるんです」と荻原さん。

 茨城県つくば市の主婦、藤沢美和さん(仮名・55歳)は、音楽家のように楽器に囲まれた家で暮らしている。ピアノ、チェロ、ピッコロ、バイオリン、フルート、クラリネット……。応接間に並ぶ数々の楽器は中古から新品まで、計400万円近くかかった。

 夫(55)は公務員で、年収約800万円。長女(24)と次女(22)を育てたが、「音楽レッスンや塾へのお金は惜しみませんでした」と振り返る。

 美和さん自身も中学からバイオリンを習い、東京都内の有名女子大でオーケストラ部に入部。娘も音楽の道に誘い、家庭生活を充実させたかった。夫も一時チェロを習い、年賀状に家庭内コンサートの写真を載せたほどの音楽一家だった。

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