落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「第三者」。

*  *  *

 6月某日。某空港にて朝10時発の羽田行きの便に乗り込んだ。

 周りはスーツ姿のサラリーマンばかり。私は羽田に着きしだい、都内の寄席に出演する予定。

 車輪が回り、飛行機は進む。窓の外、遠くのほうで係員さんたちが笑顔で手を振っている。ありがとう、みんな。また来るよ!

 だが、離陸直前に飛行機が止まった。

「◯◯装置に不具合が生じたため、当機は3番スポットに引き返し、点検をいたします」

 と機長のアナウンス。

「まじか!」

 数名がハモった。CAさんが平謝りしている最中に、引き返す飛行機に向かって笑顔で手を振り続ける係員たち。恐らく、状況が掴めてないのだろう。

「手振ってる場合か……」

 誰かがあきれた調子でつぶやいた。

 点検に40分ほどかかったが、「無事が確認できましたので、これより出発いたします」とアナウンス。一同一安心。

 ゆっくりと飛行機が滑走路へ向かう。窓の外では、再び係員が手を振っている。今度は多少、申し訳なさげに……。状況がわかった様子だ。すると、

「大変まことに申し訳ありません! 再び◯◯装置の不備がわかりましてん……」

 機長もちょっと慌てている。

「いや……わかりました! 今一度、3番スポットへ……」と告げられた。

「勘弁してよ~!」

 
 3人くらいがハモる。窓の外では、係員さんが深々と頭を下げていた。当機に関わりない「第三者」っぽい皆さんに気を使わせてしまい、申し訳ない。

 結局、欠航となり、寄席は休むことになった。航空会社からお詫びに2千円の買い物券をもらう。なぜ2千円? 振り替え便の出発まで15分しかないのに、「空港内のみ利用可能です」。おいおい、ずいぶんせかすじゃないか。

 休演のお詫びにと関係各所へ慌ててお菓子を買い込んだら2800円也……足が出た。売店は私同様に買い物券を消費しようという客でごった返し。「第三者」の店員のお姉さんは、

「一列に並んでください!! 買い物券に領収書は出ませんっ!!」とキレ気味。

 翌日。寄席にお詫びに。

「不可抗力だから仕方ないよ」

 寄席のお席亭はそう言ってお菓子を受け取ってくださった。

 差し入れとして楽屋にもお菓子を持参すると、

「『○い恋人』か? んー、北海道土産としてはベタすぎやしないか?」

 まるで関係のない「第三者」の先輩芸人が、それを頬張りながらつぶやく。

 帰りの電車でボンヤリとツイッターを覗いていると、昨日寄席に来たお客さんのつぶやきにこんなものが……。

「一之輔は突然のお休みだったけど、代わりが◯◯師匠で逆にラッキー!!」

 無邪気に喜ぶ「第三者」の声にちょっとモヤモヤする私。いろんな「第三者」にめぐり合った2日間であった。

 よーく考えると、さまざまな場面において「完全なる第三者」っているんだろうか。ちょっとでも関わっちゃった時点で誰でも当事者なんじゃないか? ◯◯師匠ファンのあなたも、私につぶやき見られた時点で当事者なのよ。そうなのよ。フフ。

週刊朝日  2016年7月8日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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