西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、セ・リーグを独走する広島は先発陣と打撃陣が奮闘しているという。

*  *  *

 交流戦では今年もパ・リーグがセ・リーグを圧倒した。セで勝ち越したのは広島だけ。パの1位のソフトバンク、2位のロッテが交流戦でも上位にきた。

 交流戦は同一リーグの直接対決がない。だから、現場では「知らないうちに差が開いていた」なんてことになりかねない。今回も終わってみたら、セ・リーグでは広島が、2位の巨人に6ゲーム差をつけていた。

 パ・リーグでのソフトバンクの独走に目を奪われがちだが、6ゲームって相当な差だよ。どんなに好調なチームでも、1カ月で5ゲーム差をひっくり返すのは難しい。戦力差が少ない今のセ・リーグで、この差は大きいよ。

 今月14~16日にラジオの解説などで、広島-西武戦(マツダスタジアム)を見た。私の古巣である西武が3連敗したが、やっぱり走攻守に広島の勢いが目立っていたよね。

 昨年は打線の弱さが目立っていた。今年は各打者がどんな球種に対しても強いスイングができている。打ち損じたりタイミングがずれたりしても、投手からすれば、一回から九回まで、強く振り続けられると、精神的につらいものだ。昨年は不振だった丸、菊池も打撃フォームを見直して、本来の姿に戻った。

 同じ試合で解説を務めた「ミスター赤ヘル」の山本浩二さんが「今年は新井の2千安打(4月に達成)、そして目前に迫っている黒田の200勝をみんな達成させようと雰囲気がいい」と話していた。そのとおりだ。ベテランの数字の目標はチームの目標にもなる。良い雰囲気の中で全員が戦えているのだろう。

 交流戦で3試合連続決勝アーチを放った鈴木誠也は入団4年目。内角のさばき、腕の畳み方が素晴らしいと感じた。これから徹底して内角を攻められるだろうけど、今の形を変える必要はない。いつか苦労する時期も来るだろうが、今の技術に自信を深めていけば、十分に壁は破れるはずだ。

 
 投手陣もいい。エースの前田健太が大リーグのドジャースに移籍して心配したけど、ジョンソン、野村の左右の両輪がしっかりと穴を埋めている。救援陣に若干の不安は残るが、その不安が表面化しないくらい、先発陣と打撃陣の奮闘が光っている。

 今のパ・リーグにはソフトバンクという投打に隙のない球団がある。ただ、セ・リーグは事情が違う。どこの球団も決め手はないし、穴も多い。ならば、広島のようなストロングポイントを持っているチームが有利なのは間違いない。

 昨年も、ヤクルトが強力な打撃力を前面に押し出し、不安視された投手陣も夏以降に安定し、リーグ優勝を果たした。

 今年の広島も戦い方がはっきりしている。ある程度の得点は計算できるから、投手陣は「1点も与えない」という窮屈な投球ではなく、「試合を作る」という意識になれるはずだ。

 じつは私、2009年にオープンしたマツダスタジアムに足を運んだのは初めて。本当に素晴らしい雰囲気だよね。真っ赤に染まったスタンドに一体感がある。史上初めて第8戦までもつれ込んだ1986年の日本シリーズ(西武-広島)を思い出したよ。あのときの広島も、ベテランと若手がうまく融合し、ファンとの一体感があったな。

週刊朝日  2016年7月8日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら