7月10日に投開票が行われる参議院選挙。作家・室井佑月氏は、景気・経済がいつも選挙の争点になることが疑問だという。

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 安倍首相は6月1日、国会閉会後に記者会見し、消費税率10%への引き上げを2年半延期することを表明した。でもって、増税延期の是非について、「参院選を通じて国民の信を問いたい」だって。

 参議院選挙で信を問うって新しいわな。が、あたしが「ん?」と思うのはそこではない。

 もともと、増えつづける社会保障費がこのままではどうにもならないから、消費税増税という話だった。増税してもアベノミクスで景気が良くなるから大丈夫って話だったよ。

 この国の社会保障にかかるお金って減ったの? でないなら、増税延期の理由はひとつしかない。アベノミクスの失敗だ。

 安倍さんは失敗を素直に認めるような人ではないし、もうそこはどうでもいい。

 しかし、あたしが気になって仕方ないのは、あたしも少し、嘘を信じ込まされていたかもってこと。

 根本の、増えつづける社会保障費を消費税でカバー、ってとこからしておかしくないか?

 この政権は大企業を優遇し税金を甘くしているし、パナマ文書で莫大な額が租税回避されているって発覚したけど、法の抜け道を塞ぐ作業もしていない。

 国民の生活格差が激しく、エンゲル係数がじわじわと上がっている。その中で、社会保障費の補填として、真っ先に消費税を充てようという発想がおかしいと、今ならばわかる。

 すぐにそう感じなかったのは、メディアの報道の仕方のせいだ。一方的な情報をくり返し流し、それを当たり前にしてしまった。

 今回もおなじことが起きている。6月1日の安倍さんの会見を受け、今度の参議院選挙の争点は経済になってしまった。

 安倍政権が最も力を入れているのは改憲だと、メディアが知らないはずはない。具体的にいえば、権力者たちを縛るための憲法を、国民を縛るための憲法に変えてしまおうとしている。

 これまで、安倍政権の選挙の後に、なにが起こってきたか。

 
 我々の言論の自由を制限しかねない特定秘密保護法を制定したり、憲法を無視した安全保障関連法を成立させたり。

 いつも選挙の争点は景気・経済なんだけどね。しかし、考えてみてよ、選挙後に我々の暮らし、なにか変わった?

 一部の人たちが恩恵を受けるだけであって、選挙が過ぎれば変わらず我々はATMのように使われる。

 そりゃあ、誰だって自分の今の生活が少しでも良くなればと願う。が、政治家が選挙前に語る景気・経済の話なんて、当たるも八卦、当たらぬも八卦の占いみたいなもんだと思う。

 きっと、地震予知くらい、世界経済の把握は、難しい。だから、偉い専門家が考えたアベノミクスは失敗し、年金を株に投入して大損をこいたんでしょうが。

 毎回、おなじ手で騙そうとする方もアレだけど、おなじ手で騙される方もアレだ。

週刊朝日  2016年7月1日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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