テレビで見ない日は無いほど大人気の俳優・綾野剛さん。作家・林真理子さんとの対談で出演した映画「日本で一番悪い奴ら」の撮影裏話を語った。
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林:暴力団の幹部役の中村獅童さん、もうそれ以外の何者でもないという感じで(笑)。こういう役がここまで似合う方だとは思いませんでした。
綾野:獅童さんのせいで「R15」がついたんじゃないかというぐらい(笑)。
林:「R15」、ついちゃいました?
綾野:ええ。Rがつかないと、その分表現の自由が少なくなるんです。その基準は曖昧だったりするんですけど。たとえばこの映画ではシートベルトをつけないで運転するシーンが出てくるんですが、テレビドラマの場合、容疑者が警察から逃げる場面でもシートベルトをしなくちゃいけないとか、あるんです。
林:まあ、そうなんですか。
綾野:(僕が演じた)諸星(という刑事)は最終的に、自らも覚醒剤を使用するようになるんですが、シャブ(覚醒剤)を注射するシーンをちゃんと映すか、雰囲気だけにするかとか。それも規制の基準の一つになりますが、この映画では血管に注射針を突き刺すところをしっかり映した。一つひとつのディテールにこだわると、どうしても「R15」になりますね。それによってご迷惑かける方もいるかもしれませんが、その分いい作品ができたと思いますし、覚醒剤の恐ろしさがより伝わると思うんです。実は僕、この映画の脚本を最初に読んだとき、一瞬「これ、映画にしていいのかな」と思ったんです。でもそう思った時点で、僕は役者として弱体化しているわけです。
林:ああ、なるほど。
綾野:美男美女が恋をする話とか、涙がこぼれる感動映画とか、そういう映画ばかりがどんどん世に出ていく。その状況を当たり前のように眺めているうちに、いつの間にか僕も侵食されてしまったんですね。
林:最近、少女漫画を原作にした作品、ものすごく多いですよね。
綾野:そういう作品のよさもあるし、僕も好きで見たりします。でも、その対極にあるような作品が存在することで、本当に美しいものを美しいと判断できると思うんです。映画産業が弱体化しないためにも、こういう作品はつくっていかなくちゃならない。それによって日本の映像文化は、もっと世界に羽ばたいていけると思うんです。
※週刊朝日 2016年7月1日号より抜粋