夫:僕がスポーツビジネスを学ぶために、早稲田大学の大学院に通ったんです。入学試験も大変だったけど、入ってからも厳しい指導教授に論文を全部却下されたり、かなり追い詰められました。自分がいっぱいいっぱいになりすぎて、彼女のことを考えている余裕もなくなって、自分の殻に閉じこもった。

妻:家の中の空気は最悪だったよね。私、円形脱毛症になっちゃったくらい。

夫:僕は「もう別れてもおかしくない」という雰囲気を出していたと思います。彼女が諦めていたら、別れていたかもしれない。でも彼女に「そんなになるなら、もうやめちゃえ!」と言われて「やめたくない!」と思った。いい意味で鍛えてもらいました。

妻:いまそこでご一緒させていただいた方が、彼の仕事につながったりしている。無駄じゃなかったですね。

――いままでも夫の仕事の節目には、妻のアドバイスがあった。

夫:付き合い始めたころ彼女に「なんで芝居をやるの?」と言われたこともありました。僕はライフセービングを普及させたいという思いがあって、縁があってドラマや舞台に出させていただいていたんですけど、本当に大根で、あまりにひどすぎた。演技ってこんなに難しいんだなと。

妻:気がついてよかったね(笑)。

夫:そんなとき彼女は「あなたにできることをもっと追求したら」と、さりげなくアドバイスをしてくれた。それから僕は千葉でライフセービングチームをつくり、日本代表にも復帰した。彼女はいつも的確なことを言ってくれるんです。

妻:私も自分のことはわからなかったりもするから、生意気なことは言えないんですけどね。

夫:いまはスポーツを通じて子どもの教育に関わったり、海の安全を教える活動が中心です。学校へのAEDの普及活動にも取り組んでいる。自分が学んできたことを、次の世代に伝えていきたいんです。

週刊朝日 2016年6月24日号より抜粋