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死んでしまう系のぼくらに
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 書店にどきっとするタイトルの詩集が並ぶ。

『死んでしまう系のぼくらに』(2014年、リトルモア)

 売り上げ数百部の世界ともいわれる詩集で、1万8千部を記録するベストセラーとなっている。著者は詩人で小説家の最果(さいはて)タヒ。蛍光イエローのポップなカバーは、詩歌本のコーナーではとりわけ目をひく。

<きみが好きです。
死ぬこともあるのだという、その事実がとても好きです。>

「死」を取り上げる内容が多い割に、どこか透明感がある言葉が若者の繊細な感性を刺激する。初めて買った本がこれだという中学生もいて、「いま持っていたい一冊」となっているそうだ。

 本書の販売数全国トップクラスの紀伊國屋書店新宿本店の梅﨑実奈さんは言う。

「どちらかというとカルチャー系の見た目ですよね。コンパクトなサイズや、詩集としては低価格(1296円)ということも、手に取りやすい理由のひとつだと思います」

 もちろん人気の訳はそれだけではない。

「ストレートな言葉も多いですが、自分も世界も俯瞰している感じですね。そこが若者に届くのではないでしょうか」(梅﨑さん)

 最果は<1986年、神戸市生まれ>ということ以外、素顔はベールに包まれている。取材を申し込んで会ってみると、実に謎深い世界観を醸し出していた。

 詩集は縦書きと横書きがランダムに並ぶ。その理由を最果はこう語る。

「物語ではないので、文脈をもたせたくないし、目の動きを変えて新鮮さを出したい」。読み手が好きなように共感や共鳴を生み出す仕上がりだという。

 最果は続ける。「喫茶店とかテレビの前とか、周りが騒がしいほうが集中できる気がして好きなんです」。静かに机に向かわず、騒がしい中にふと書ける瞬間が訪れ、喧騒の中、誰かの言葉、思いが“降りてくる”ように詩が浮かぶという。

「誰かが思っていることを借りるイメージです」

 5月発売の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)は増刷が決まった。『死んでしまう系の』が10代の一瞬の価値観だとすれば、『夜空は』は永遠という思いが込められる。最果が描く世界観は幅広い層へと広がりを見せている。

週刊朝日  2016年6月24日号