「リーマンショック」という言葉を何度も使い、消費増税先送りを発表した安倍晋三首相。このことについて作家の室井佑月氏は、安倍首相の性格が見えたという。

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 6月1日、安倍首相が消費増税を2年半先送りにすることを、会見で発表した。

「私たちが現在直面しているリスクは、リーマンショックのような金融不安とはまったく異なります。しかしリスクには備えなければならない」

 だって。

 この期におよんでまだ「リーマンショック」という言葉を持ち出してくるのか。この方、ほんとうに負けず嫌いで、くだらない見栄張りなのね。

 そもそも前の選挙のとき、「リーマンショック級の経済危機などの重大事態が起きない限り、もう消費増税の延期はない」。そういい切ってしまったから、嘘ついていないっていいたくて「リーマンショック」という言葉を持ち出した。で、その発言に対し、サミットに出た各国の代表にもお墨付きをもらいたかったが、失敗。つーか逆に「リーマンショック」という言葉を取り上げ、「違うから」と否定される始末。

 そこでやめときゃいいのに、議長記者会見で「リーマンショック」という言葉を、少なくとも5回は連発し、世界的経済危機であることをアピール。そして、「私たちG7は、その認識を共有し、強い危機感を共有しました」

 とまでいってしまい、

「そんな共有なかったろ。選挙が近いからって、国内政治に利用すんなや」

 という論調で、海外メディアにぶっ叩かれた。

 その後、この方は、自民党の役員会の中、身内だけで気が緩んだのか、

「私がリーマンショック前の状況に似ているとの認識を示したとの報道があるが、まったくの誤りである」

 と蒸し返す。それをロイター通信にすっぱ抜かれ、さすがに国内メディアにも少し責められ、国民の多くが「あの人、ちょっとおかしくない?」、そう首を傾げだしたら、1日の会見で、

「リーマンショックとは異なる」

 
 ときっぱり断言。居直りか?

 違うって、そうじゃないって、だってこれ「新しい判断」だもん、だってよ!

 あのぉ、もうあなたがどんな嘘をつこうが、国民は驚いちゃいないって。またか、って感覚だって。海外の方はびっくりしたかもしれないが、「リーマンショック」という言葉がどうのなどと些細なことを、気にしているのはあなただけ。

 だって、着実に我々の生活は破壊されていっている。リーマンショック級の世界経済危機? あなた、国会で「確実に景気は上向いている」っていってたじゃん。だから、我々の年金を株に突っ込んだんじゃないの?……失敗して8兆くらい大損こいたみたいだけど。

 社会保障費が足りないから消費税を上げなきゃっていってたけど、なんかそこもどうでもいい感じになってきたな。

 ああ、もう、わかった! あなた「リーマンショック」なんて一言もいってない。そういうことにするから、あたしらの生活を元に戻して。さっさと辞めて。

週刊朝日 2016年6月24日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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