バージャー病を発症すると、手足の末端の血管が詰まって炎症が生じ、皮膚に痛みや潰瘍(かいよう)を起こす。放置すれば手足が腐ってしまう。「日本の喜劇王」と呼ばれたエノケン(榎本健一)は、この病気にかかって足を切断した。

 これまで原因不明とされてきたが、東京医科歯科大学の研究グループがバージャー病患者14人を調べたところ、全員が中等度から重度の歯周病と診断された。さらにバージャー病患者の患部から取り出した血管試料の大半から、歯周病菌が検出されたのだ。一方、正常血管の試料からは歯周病菌は全く検出されなかった。

 この研究によって、バージャー病の原因や悪化には口の中の細菌、とくに歯周病菌がかかわっている可能性が濃厚になったのだ。

【その3】歯周病の進行は差が大きい。1割の人は重症化する!

 同じ民族で、同じ場所に住み、同じようなものを食べていても、歯周病の進み方は人によってかなり違うことがわかってきた。発端は40年ほど前、スイスの研究者らがスリランカのお茶農園で働く人たちを対象におこなった研究だ。彼らは当時、歯を磨く習慣がなく、歯科医師もいなかった。そこで「歯磨きや治療をしないままほったらかしておくと、歯周病はどのように進むか」を調べたのだ。全員、歯肉炎(歯周病の初期で、歯ぐきにのみ炎症が起きている状態)にはなるのだが、11%の人はほったらかしにもかかわらずそれ以上は進行しない。一方で、1割弱(8%)が重症化し、20代から歯周病の症状が出始め歯が抜け落ち、40代になるとほとんどの歯を失った。歯周病の進行状況は大きく違ったのだ。

 その後も、多くの研究がおこなわれ、先進国でも歯周病患者の10%前後は重症になることが報告されている。また、日本臨床歯周病学会がおこなった歯周病実態調査では、30~40代の若い世代でも重度歯周病患者が15%ほどを占めていた。

週刊朝日  2016年6月17日号より抜粋