「手術不可能の膵がんを、手術可能にする」治療法が(※イメージ)
「手術不可能の膵がんを、手術可能にする」治療法が(※イメージ)

 気づかないうちに進行している膵(すい)がん。発見された人のうち、手術が可能なのはわずか2割ほどだ。しかし近年、新しい抗がん剤の登場で、手術可能な患者が増えている。

 さらなる手立てを研究しているのが、名古屋大学病院消化器外科准教授の藤井努医師だ。藤井医師は腫瘍内科の範囲である抗がん剤にも精通しており、複数の治療を駆使して患者の余命期間を延ばしている。

 注目すべき治療は二つ。ひとつは、「手術不可能の膵がんを、手術可能にする」治療法だ。

「膵がんは、手術をいかに可能にするかが、完治を望めるか否かの分かれ目です」(藤井医師)

 大きく関係しているのが、4種類の抗がん剤を合わせたフォルフィリノックスと、ナブパクリタキセルという新しい抗がん剤だ。それぞれ13年と14年に国内で承認された。いずれも従来の抗がん剤より強い効果を発揮することが、臨床研究で示されている。

「従来法に新しい抗がん剤が加わり、治療の選択肢が増えました。これらを組み合わせ、手術不可能と診断された膵がんを縮小させるのです」(同)

 もともとは、「手術可能の膵がん」が対象だった。手術前に抗がん剤を投与し、場合によっては放射線治療もすることでがん細胞が縮小、手術が可能になる。こういった手法は「術前療法」と呼ばれ、まだ膵がん治療のガイドラインには定められていないが、専門医を中心に用いられている。

 さらに近年、「手術不可能の膵がん」に対しても、手術可能になることを目指して、抗がん剤投与や放射線治療がおこなわれるようになってきた。手術可能の膵がんに施すのとは違い、「どこまでやるか」の見極めが難しいが、これによって治療後の状態が大きく変わる。ただし、遠隔転移がある場合にはおこなえない。

 静岡県在住の会社員、山本弘子さん(仮名・50歳)も15年5月にCT(コンピューター断層撮影)を受けた結果、膵がんが見つかった。すでにステージ4まで進行し手術ができない。「抗がん剤を投与しても、副作用で苦しむだけ」と一時は治療を投げ出そうと考えたが、一縷(いちる)の望みをかけて藤井医師の外来を受診した。

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