落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「通販」。

*  *  *

 ラジオのワイド番組のショッピングコーナーが好きだ。

 リスナーの購買欲を煽るために商品をほめる。要するに商品をヨイショするわけだ。ヨイショして、ヨイショして、最後に「お安いですねーっ!!(驚) 今がお買い得っ!!」で、電話番号を読み上げて締める。

 テレビでもこの手の番組は多いが、ラジオのほうが商品の画が見えない分、想像をかき立てられて買いたくなる気がするから不思議だ。通販の情報は音のみのほうが効果的かもしれない。

 特に食べ物系は思わず受話器を握ってしまいたくなるほどにムラムラさせられる。

 イクラ、佃煮、塩辛、海苔などの「飯の友」をパーソナリティーが炊きたての白米にのせてハフハフ言いながら食べてるのを聴くと、もうダメ。お茶漬けをズルズルすする音もたまらない。

 何年か前に、TBSラジオの「大沢悠里のゆうゆうワイド」にゲストで呼んで頂いた。ラジオショッピングのコーナーに、私も参加するようにと言われた。嬉しいじゃないか。

「どんな美味いものをハフハフすればよいのか!」と、胸を高鳴らせていたら、その日の商品は介護用の洋式便座だった。おいおい。促されてとりあえず座る。脱糞するわけにはいかないから、座るだけ。一言、

「思わず、したくなりますね」

 あの時のベストのコメントは一体なんだったのだろう? いまだ不明なままだ。

 
 先日、ネット通販で布団用の掃除機を買った。外国メーカーの「ホコリやチリをメチャクチャ吸い込む」という触れ込みのスグレモノ。早速使ってみた。

 メチャクチャどころか、「もういいよっ!!」ってくらいにとれた。瞬く間にタンク内にきな粉のような粉塵が溜まっていく。どうやらチリやホコリに混じって、ダニの死骸・ダニの糞・ダニの餌となる人間の皮脂やフケもとれるらしい。

 それを聞いたらタンクの中を見てるだけで、身体が痒くなってくしゃみが止まらなくなった。こんなことなら、とらないほうがよかったんじゃないか。

 舶来品、恐るべし。

 私はいまだにガラケーを使っている。10年くらいたつかな。一度も電池パックを替えていないので、充電が半日も保たない。

「そろそろスマホに変えようか?」と悩んでいると、

「ネットで電池パック探してみようか?」

 と先輩がチョチョイとスマホで見つけてくれた。

「在庫一つあるね。買ったら?」

 帰宅して家内に頼んで注文すると、翌日に新品が届いた。電池を入れ替えたガラケーは新品同様に今も活躍中だ。

 なんて便利な世の中なのだ。ネット通販のおかげであっという間に商品が手元に届く。

 でも不思議なのは、その「便利」な通販を使って「便利」なスマホを買わず、依然としてガラケーを使い続ける道を選んだ私はなんなんだろう? 正直、今使っているガラケーは不便。なんか「便利」で「不便」を買っているような気がする……。

 通販で買った電池パックのおかげで、私のガラケー生活ももうしばらく続きそうだ。

 ただ最近、「決定ボタン」の接触が悪くなってきた。2、3回強く押さないと、私の携帯は物事を決定できない優柔不断な状態だ。うーん。

週刊朝日 2016年6月17日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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