「良い雑誌を作ることに、とにかく一生懸命で、花森さんは編集長として抜群のセンスでした。一方で、レコード鑑賞やカメラなど多趣味。メルクリンという汽車の模型も好きで、会社の部屋にもレールを敷いていて、気が乗らない時は遊んで仕事が進まず、困った鎭子さんが怒ることもあったそうです」(隆さん)

 昭和53年、花森氏が心筋梗塞で急逝し、鎭子さんが編集長兼社長となった。鎭子さんは、亡くなる1年ほど前まで毎日のように出社していたという。

「鎭子さんに、『仕事を辞めたいと思ったことはないか』と尋ねたことがありましたが、『一度もない』と即答でした。90歳になっても週末にはデパートや銀座に出かけ、人だかりに近づいて『何があるの』と尋ね、“タネ探し”をしていました。会社に社員の誰かがいないと『どうしたの』と聞き、『人に優しく、人を大切に』と口癖のように言っていました」(泰子さん)

 激動の時代を生き抜いたが、自宅での〝オフ〟は、どんな様子だったのか。

「自宅に帰ると、仕事の話は一切しなかったですね。手優ということもあり、家事はやらず〝男対応〟でした。『必殺仕事人』のような時代劇や、推理モノ、サスペンスドラマをよく見ていました」(隆さん)

 好きな食べ物は、ステーキや鮪のお刺し身。北海道に一時、住んでいたため、塩鮭や毛ガニも好んだ。

「長生きでしたが、意外なことに偏食でした。お味噌汁はあまり好まず、野菜はほとんど食べなくて、甘いおかずが苦手でした。鎭子さんを見ていると、好きな仕事をしてストレスをためず、腹八分に食べて、規則正しい生活をすることが、長生きの秘訣なんだと思いましたね」(泰子さん)

 高視聴率の「とと姉ちゃん」だが、今後、楽しみなのは、どんなところか。

「唐沢寿明さん演じる花森さん(役名は花山伊佐次)と、鎭子さんの掛け合いがどう描かれるのか。花森さんのおかっぱ頭やスカートをはいたという都市伝説がどのように表現されるのか注目しています」(隆さん)。(本誌・牧野めぐみ)

週刊朝日 2016年6月10日号