ヤクルト・山田哲人内野手が開幕から好調をキープしている。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、山田選手が好調な理由をこう分析する。

*  *  *

 ヤクルトの山田哲人が開幕から順調に数字を積み上げている。昨年は4月終了時点で打率2割6分9厘、2本塁打、10打点、盗塁4と出遅れたが、5月以降に本来の感覚を取り戻し、トリプルスリーを達成。本塁打と盗塁のタイトルも獲得した。

 今年は開幕してからずっと3割を大きく超え、本塁打、盗塁はリーグトップに立っている(25日現在)。昨年よりも順調な滑り出しで、投手陣に疲れが出る梅雨から夏場にかけ、さらに数字を伸ばしていくだろうと予感させる。

 膝、そしてスイングするときの肘の柔らかさが素晴らしい。投手が速球も微妙に動かし、変化球も無数にある今の野球で、打者として一番大事な要素であろう。

 ファンの方々にもわかると思うが、彼の打席では「完全に体勢が崩されて、左手1本でバットを出す」という光景をほとんど見ない。裏を返せば、どんな球種、コースに対しても柔軟に対応し、自分のスイングを繰り出せるということ。崩れる形が見えないから、投手は打ち取るパターンをイメージしにくい。

 体の不調などで不振に陥ることはあったとしても、技術的な部分で浮き沈みは小さい。投手が徹底的に攻めてきても、自ら崩れる可能性が低い。私の現役時代でいえば、3度の三冠王に輝いた落合博満の柔軟性に似ている。いったん自分のタイミングをつかんでしまえば、シーズン最後まで高水準で打ち続ける。

 打ち取るためには、ウィニングショットから逆算した配球がカギになる。落ちる球が得意な投手であれば、高めでいかにファウルを打たせてカウントを稼ぐか。内外角の横の変化で勝負する投手は、内角をどう意識させるか。「2ストライクになったから決め球で」という配球では通用しない。

 
 統計をとったわけではないが、今年の山田はボール球を振る確率が格段に減っているように映る。私なら、内角の胸元付近にシュート回転をかけた球を投げる。単なる速球だと、肘の畳みや体の反応でさばかれる。速球のタイミングで振りにきて、ボール半個でも食い込んでくれれば打ち取れる。懐はけっこう空いているから、シュートを得意とする投手は投げやすいはずだ。それでも高度な投球術が要求されるのは間違いない。

 かつての大打者は体が大きくて、どこか不器用さも兼ね備えていた。だが、山田には苦手な部分がまったく見えない。他球団が細かな対策を講じても、その上を行っている印象がある。ストレートを待ちながら変化球にも対応するには、肘と膝の柔らかさがいかに大事か。山田を見ていると、それを痛感させられる。

 彼は二塁手だから、俊敏性も失わず、体を大きくしていく必要がある。ウェートトレーニングだけに頼ってはいけないよな。試合前、杉村繁チーフ打撃コーチとマンツーマンでティー打撃をしているそうだが、バットを振る中で力をつけ、そのうえで足りない部分をウェートトレーニングで補完していってほしい。

 山田も、パ・リーグで昨季トリプルスリーを達成した柳田悠岐(ソフトバンク)も四球数がリーグトップ級。相手投手に徹底的にマークされる中で「打ちたい」という気持ちが前に出すぎることもない。山田は7月で24歳か。その若さで心の柔軟性もある。

週刊朝日  2016年6月10日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら