作家の室井佑月氏は、舛添要一都知事の“税金着服疑惑”に疑問を呈する。

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 5月13日の金曜日、「週刊文春」に税金の着服疑惑をスクープされた舛添都知事が、言い訳会見を開いた。記者に突っ込まれ「後日、精査して」なんてその場しのぎの苦しい誤魔化しをするものだから、その後も、何度もぶっ叩かれる羽目になった。メディアは祭りのような騒ぎ。

 会見にはたくさんのメディア関係者が集まり、記者は嬉々として舛添さんを追及しておった。この人たち、石原慎太郎さんのときはなにをしてたの?

 石原さんはガラパゴス諸島にクルーザーを出した豪華視察をしていたり、都庁に週2、3日しか出てこなかったり。

 石原さんにはなんにもいえなくて、舛添さんは叩きやすいっていう話なら、メディアの正義ほど当てにならないものはない。

 あるワイドショーは、舛添さんの元妻・片山さつきさんを登場させていた。舛添さんが会見をしているときに、彼女のにやついた顔がワイプで抜かれる。視聴者のあたしは、そのたび、(ぎゃ~っ!)と面白がってしまったが、見終わった後、いいのかな?って思った。自分たちの生活にだって多大な影響を与えかねない政治と金の問題を、ホラー映画を観賞するみたいに見てしまったことを恥じた。

 そう、政治と金の問題は他人事じゃないはずだ。あたしたちの血税を、自分の金と勘違いしている輩がつぎつぎにわいてくる。そういう輩が国や地方自治体の予算を決めたりする。自分の無駄使いを棚上げして、予算が足りないなどと、あたしたちにいう。

「週刊文春」が舛添さんのスクープを上げたなら、他所はほかの政治家の疑惑を取り上げていくべきだろう。

 だが、違う。みな「週刊文春」に乗っかり、舛添さんを叩くだけ。

 
 賄賂を指摘され睡眠障害になった甘利さんはその後どうなった? 闇ガネ925万円で刑事告発されている、高市総務相は?

 パナマ文書の暴露で、金持ちの莫大な税金回避が発覚したわけだけど、これをそのままにしておく気か?

 東京オリンピックに関して、どんな金がどんな風に使われたのか?

 そうそう、5月20日発行の日刊ゲンダイには、「自民党政治資金 谷垣幹事長に8億円つかみガネ 税金から身内企業へ193億円」なんて驚愕する記事が書かれていた。

 格差は広がり、一部の特権階級の人々しか良い目を見ていない事実が露(あらわ)になってきた。そこで、舛添さんが目くらましやガス抜きのように使われている。

 てなことをいったら、

「今度はワルの舛添の味方かよ」

 そんな風に方々から叩かれてしまった。でも、考えてみて欲しい。舛添さんは、都知事選を自公の支援で勝利したのだ。そして、舛添叩きでほっと一息ついている人は誰?

 彼らが与えてくれる生(い)け贄(にえ)に、飛びついて喜ぶばかりでいいのですか? だから、なにも変わらない。

週刊朝日  2016年6月10日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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