ホテルの入り口は警察官や警備員がいっぱい。物々しい柵まで設置され、ふらっと中に入れる雰囲気ではありません。そのまま素通りして賢島大橋へ。目の前に広がる美しいリアス式海岸にたくさんの小船が行き交い……あっ、よく見たらすべて警察関係の船でした。

 賢島は、サミット5日前の21日から、住民以外は立ち入り禁止に。電車も2駅手前の鵜方駅が臨時の終点になっていました。

 サミットがほぼ終了した27日午後、伊勢神宮内宮に足を運ぶと、前日の喧噪はすっかり収まっています。天気もよく、何となく「台風一過」の風情です。

 参拝客はまばら。御正宮に続く階段の下にいた5人ほどの男性グループが、「お礼参りだね」「まだ気が早いよ」と話しています。どうやら警察関係者のようです。みなさんホッとした表情でした。

 ふだんは賑やかな参道のおはらい町も、見たことがないほどガラガラです。

「まあ明日からですね。嵐の前の静けさですよ」とは、ある土産物屋さん。

 伊勢志摩の友人たちに、地元でサミットが開催されたことについて、どう思うかを聞いてみました。

「そりゃ、こんな名誉なことはないと思うよ。伊勢志摩が世界的にも有名になったのもうれしいし」

「伊勢=日本人の心の故郷ってことを広く認識してもらえたように思うな」

「よそに行ったときに『三重県ってどこ?』と聞かれることが減るかなあ」

「地元の自分らにとっても、改めて伊勢志摩のよさを知る機会になったかな」

 警官の多さも「非日常」の光景として楽しみつつ、みなさん肯定的に受け止めていました。地元業界も「G7サミット伊勢うどん」のほか、サミット関連の地ビールやジェラートパフェなどを発売するなど、せっかくだから盛り上がろうという雰囲気に満ちていました。もともと、お祭り慣れしている伝統があるからかもしれません。

「ウチのお母ちゃんなんか、明日から若い警察官の人らがおらんようになるなあって、寂しがってるわ」

「終わってしもて、なんかサミットロスやな。今年の“伊勢志摩流行語大賞”は、これで決まりやな」

 嵐のような2日間、いや開催が決まってからの長い興奮の日々が終わりました。世界に名を馳せたことで、今後の伊勢志摩に何が起きるのか、地元の期待はふくらんでいます。そして伊勢うどんにも何が起きるのか、私の期待も伊勢うどんの麺のように太くふわふわとふくらんでいます。

週刊朝日 2016年6月10日号