シニア劇団の活動が全国で活発に(※イメージ)
シニア劇団の活動が全国で活発に(※イメージ)

 客席の明かりが消えて場内が真っ暗になる。木枯らしの音とともに現れる、黒いマント姿の一羽のカラス。カラスは有賀という人間に姿を変えて、これから舞台上で繰り広げられる「君のすんでいた町が過去になるものがたり」を黙って見つめる……。2016年5月、東京・中野、かんじゅく座第10回公演「カラスの声も、しわがれる…」(以下、「カラスの声」)の開演だ。

 かんじゅく座は60歳以上ならだれでも入団できるシニアのアマチュア劇団で座員は現在約40人、平均年齢は70歳だ。今年で設立10周年を迎えた。役者はほぼ未経験者だが、演出や音響、照明など、裏方はすべてプロが手がける。企画・脚本・演出を担当し、劇団の代表でもある鯨エマさん(43)もプロの演出家・俳優だ。

「カラスの声」の舞台は市町村合併に揺れる町。人柄は良いが演説下手な元小学校長と、ネットを駆使した選挙戦を展開する元ベンチャー企業社長の一騎打ちで、家族も巻き込む町長選を描く。

“カラス”こと「有賀」を演じるヒコさん(73)はかんじゅく座に入って7年。劇団員を引っ張る存在だ。

 商社で44年間勤め上げたヒコさん。定年後、趣味を求めて、ゴルフに麻雀、釣りと、さまよった。

「どれもそれなりにおもしろかったけれど、その場限りにしか思えず、熱中できなかったんです」

 そんなある日、たまたま入った映画館で上映していたのが、かんじゅく座立ち上げまでのドキュメンタリー映画だった。舞台挨拶に来ていた座長の誘い文句に乗り、見学しに行ったのが転機になった。

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