「でも、負けなかった。そうだからこそ見えてくるものがあると居直った」

 苦労したのは男性のモデル探し。ようやく服を脱いでもらっても、女性以上に恥ずかしがってポーズをとるのを拒む人が多かったという。モデルになってくれる確率が高かったのは運動部系の学生。「君の体、すばらしいなあ。見せてくれよ」というのが殺し文句。男性ヌード写真集『脱いだ男たち』を出版した際には、買ってもらいやすいようにと、本の帯に「デッサン用」と大きく文字を刷り込んだそうである。

「薔薇族」には、サウナやアダルトショップ、ホテルなどの広告が入り、全280ページのうち、広告が50ページを占めたこともあった。愛読者のための旅行イベントや電話相談室、「高校生のための座談会」も開催。90年代には、毎月3万部がほぼ完売する勢いだった。

 競合誌の登場やインターネットの台頭もあり、21世紀に入って部数が急減。取り扱う書店の廃業も相次ぎ、部数は3千部にまで落ち込んだ。

「でも、最大の原因は世の中の変化。若い人たちがいろいろなことについて悩まなくなった。読者が悩んでいなければ、雑誌は売れないんです」

 伊藤さんはそう見ている。

 2004年9月22日、朝日新聞は夕刊の社会面で「発売中の382号を最後に『薔薇族』が廃刊する」と報じた。何を隠そう、これは私の特ダネだったが、反響はすさまじく、新聞や通信社が一斉に追っかけた。イギリスやフランス、スイスの新聞社までが取材に動き、伊藤さんの自宅の電話は一日中鳴りっぱなしだった。

「ラジオの生番組にも電話で出演しました。創刊以来の出来事を一気にしゃべるのですから大変でした」

 読者から激励のメールや手紙が殺到し、その後、復刊と休刊を繰り返したが、現在はその幕を閉じている。伊藤さんはブログ「伊藤文学のひとりごと」で近況などを発信している。

「日本の出版文化の一翼を担ってきた自負が僕にはあります」

 最近、LGBT(同性愛者、両性愛者、心と体の性が一致しない人ら性的少数者)が脚光を浴び、その人権保護が叫ばれている。「薔薇族」が果たしてきた役割も大きい。

週刊朝日 2016年6月3日号