著者の池井戸潤氏は元三菱銀行員で、『下町ロケット』『ロスジェネの逆襲』など数々のヒット作を生み続けている。

 空飛ぶタイヤの第五章「罪罰系迷門企業」には、「ホープ」と名付けられた架空の企業グループについて、こんな言葉がある。

「純粋培養されてきたような人間達が、どうしようもないほど危機感を欠落させたまま迷走を続けていることも事実だ」

 縦割りや内向き志向など三菱自で問題視された企業風土は、ほかの企業でも起こりうる。国内外の企業経営に詳しいペイ・ガバナンス日本の阿部直彦氏は、警鐘を鳴らす。

「同じ企業に長い間勤めていると、社内の考え方で動きがちになる。その考え方は、世間からみてOKなのかOKでないのかを、重視しなくなる。東芝の不祥事もそうでしたが、燃費不正問題も『内部の論理』が勝ってしまった結果です」

 時代の流れの変化もある。財閥系企業の実態に詳しい経済評論家の奥村宏氏は、こう指摘する。

「バブル経済崩壊後、(旧財閥の)三菱、三井、住友ともに中核の銀行が経営危機に陥った。三菱銀行は、三和や東海などほかの企業集団の銀行とも合併した。三菱は三井、住友に比べれば、結束力は強いものの、株式持ち合いは薄まり、各社はそれぞれ問題を抱える。損を被ってでも結束という状況ではない」

「最強」と囃された三菱グループ。奥村氏は最近、「三菱の強さを聞きたい」と米紙記者から取材を受けた。現状を説明すると、「記事にならなかったようだ」と奥村氏。もう「帝国」は崩壊したのかもしれない。

週刊朝日 2016年5月27日号より抜粋