宮川さんは、35歳のころから、夜勤明けなどに、心房細動の発作を繰り返していた。抗不整脈薬の服用を続けていたが、発作がなくなることはなかった。カテーテルアブレーションについては知ってはいたが、治療に踏み切れずにいた。

 そんな折、新聞記事でホットバルーンカテーテルが治験中であると知り、開発者である葉山ハートセンターの佐竹修太郎医師を訪ねた。2010年のことだ。

 ホットバルーンカテーテルは、06年に開発された。カテーテルアブレーション同様、太もものつけ根からカテーテルを挿入し、心房内の患部まで到達させる。ただし、電極をピンポイントにあてて少しずつ焼いていく従来の方式とは違い、焼灼にカテーテル先端につけたポリウレタン製のバルーンを使う。患部に到達すると、バルーンに生理的食塩水と造影剤を注入し、25~33ミリまで拡張させる。内部は高周波電流で約60度に熱し、撹拌して温度を均一に保つ。そのバルーンを患部に圧着し、面で焼いていく。

「カテーテルアブレーションに比べて簡単で、10倍の面積を約10分の1の回数で焼灼できます」(佐竹医師)

 安全性も高い。心筋に直接高周波電流が流れないため、食道にダメージを与えることもなく、治療中に血栓が発生して血管が詰まるなどの合併症が起こるリスクも抑えられる。

 佐竹医師による治療で、宮川さんは発作性の心房細動から解放された。その後、経過観察のため定期的に受診しているが、6年経った現在も心房細動の発作が再発することなく、日常生活を送っている。

「宮川さんのように、発作性の心房細動で、肺静脈の周囲を治療するだけで済むケースでは、当院の根治率は約90%です。ただし、持続性の心房細動が複数の部位にある場合や、右心房側に患部がある場合、一度の治療での根治率は80%ほどです」(同)

 ホットバルーンカテーテルは、17病院での治験の結果、安全性や有用性が認められ、16年4月に保険承認された。現在は葉山ハートセンターを含め、全国6病院での治療が可能で、年内には40病院で採用される予定だ。

週刊朝日  2016年5月20日号より抜粋