妻:私は書くのが遅いけど、彼はものすごいスピードで仕上げていく。「どうやっているんだろう?」といい刺激になるんです。

夫:僕は書くのがすごく好きというわけじゃないんです。ただ、やっていてつらくない。中学生のころから夏休みの読書感想文を友達からお金をもらって請け負っていたくらいで。

妻:私たちは書き方も全然違います。彼は1行目から書き始めて、布を織るように終わりまできれいに文章ができあがっていく。私は自分が思いついた場面をバーッと書いて、それを少しずつもんで、だんだん形になっていく。

夫:「織り師」と「彫り師」の違いがあるんです。

――15年に長女が誕生。妻は夫の変化に驚いたという。

妻:それまで彼は「なんでも適当」だったけど、娘に対してはすごく細やかな人間に生まれ変わったんです。「ここ赤くなってるよ」とか「爪が伸びてるよ」とか。愛がある人なんだなあと思いました。

夫:僕は彼女と結婚しても、広大な牧場で放し飼いにされているようなもので、好き勝手に生きてきたんです。一定の程度を超えると柵にビビビッと電流が走るけど。

妻:一応、私がその柵になっていたけど、もう柵はいらないですね。娘の周りをクルクル回っているだけ。

夫:牧羊犬だね(笑)。これから10年は娘のために生きようと決めたんです。

妻:私はいままでどおり旅や仕事をすることを諦めたくない。すでに娘と3人で米ヨセミテ国立公園に旅行にも行きました。わが家は「常に旅行カバンが出ている」状態なんです。

週刊朝日  2016年5月6-13日号より抜粋