須藤:カッコイイ!

池谷:洗面台に水をためて流すと渦ができますよね。渦もずっと形を保っているでしょ。それは渦ができると早く水が抜けるから。よりエネルギーが安定する方向に行きやすいからです。僕らが形を保っているのも、僕らが存在するほうが早く平坦化する。生物がいたほうが地球は早く老化して死ぬ。宇宙に生物が存在する意味はそれなんです。あくまで物理化学的な意味では、ですが。

須藤:じゃあ、環境破壊は自然が望んでいるとおりだっていうことですか。

池谷:結局そうなっちゃう。哲学の世界では、なぜ人を殺してはいけないのかという問いはものすごく難題で、いまだに解けていません。物理化学では人は長生きしないといけない。たくさん子どもをつくってどんどん宇宙を破壊しなくてはいけない。そのために僕たちは形を保っている。この考え方はノーベル賞を取っているんですよ。

編集部:最後にお二人の好きな言葉を教えてください。

須藤:本のタイトルにもしたニーチェ先輩の「人生を危険にさらせ」です。自分に正直に誠実に生き抜け、という感じがします。カッコよさの極みです。

池谷:僕は、「脳を知るために脳を使う」。哲学も脳でするわけでしょ。僕らは脳を使っている限り偏見でしかものを考えられない。それを知るのが気持ちいい。科学者の仕事をしていると、連日のように新しい発見が報告されます。脳を使って脳を考えることに興味は尽きません。

週刊朝日  2016年4月29日号より抜粋