作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。HKT48の新曲に対し、こんな感情を抱いたという。

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 秋元康さん作詞の新曲が、「女性差別」との批判を受けている。HKT48の歌で、「女の子は可愛くなきゃね」「どんなに勉強できても 愛されなきゃ意味がない」「女の子は恋が仕事よママになるまで子供でいい」。まあ、そんなような歌詞で、子供みたいな前髪たっぷりのアイドルたちが、跳びはねたり、口プーッと膨らませたり、ふにゃふにゃふわふわ体くねらせたり、ピンクとかイエローとかケーキとか風船とか、そんなものに囲まれている感じのPVだ。

 あまりにもストレートな表現に、「あえて炎上させているのではないか」と疑いの声すら出ているが、私は正直、これは女性差別だ! と怒る前に、キモすぎて吐きそう。「ママになるまで子供でいい」ってどうなの? 子供とセックスしたいって言ってるようなものだよね。マジでキモイ。

「(女は)愛されなきゃ意味がない」に反応する人も多かった。こんな戯(ざ)れ言、耳が腐るんだけど? の一言で片付けたいけど、でも、この歌が女性に向けたものではなく、アイドル好きの男のために創られた歌であることを意識すると、なるほどねぇ、と、うなずきたくなる思いにもなる。

 少女アイドルにはまっている知人がいる。テレビに出るようなアイドルではなく、うまくいけば顔見知りになれ、ラインのやりとりくらいはできるアイドルを応援するのが彼の趣味だ。彼は40代で小学生の子供と妻の3人暮らしだが、彼によればアイドルオタクの中心は40代男性で、妻子のある人、社会的地位のある人も少なくない。

 
「自分の子供くらいの年の女性に、性的に欲情できるの?」と私は聞いたが、そこは、微妙なラインらしい。例えば、彼女たちのブログに「ディズニーランド行きました!」みたいなことが書いてあると「男と行ったのかよ!?」と、いら立つが、かといって、彼女たちとセックスをしたいわけではない。ただ、男の影が見えるとファンの立場を踏みにじられたように感じるのだ。

 彼の話や、昨今のアイドル事情をみて思う。今の女性アイドルとは、男たちの欲情を満たす人ではなく、男たちのルールに従う人なのかもしれない。ファンとアイドルの間には部外者には見えない契約が結ばれている。男に対する尊大な態度や、他の男とセックスしていることが発覚したら、所属事務所は女性を坊主にしたり、違約金を払わせたりする。そこで生きのびたいならば、本当に頭がいい女ならば、ばかなふりして男に選ばれる道を選べよ、なぜならそれが、俺たちのルールなのだから……。

 そう、この世界では選ばれないアイドルに、存在価値はない。そこにあるのは、女の夢をかなえる、輝きたい女を応援するという安倍政権的な体を取った、男の自尊心とエロ心を満たすための装置。そんなものを、私たちは「文化」として消費させられているんだよね。怒りより吐き気を催すアイドルオタク歌。「差別じゃないよ契約だよ」という男の声が聞こえてくる。この国の男の問題、末期症状です。

週刊朝日  2016年4月29日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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