今季初となる阪神巨人の「伝統の一戦」が行なわれたが、東尾修氏は、両軍の個性が出た興味深い戦いだったと分析する。

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 阪神と巨人が開幕から好スタートを切った。今季初の「伝統の一戦」となった4月5~7日の3連戦(東京ドーム)でも、お互いの色がぶつかり合って、興味深い3連戦だった。東西の人気球団。セ・リーグの今年のペナントレースを引っ張っていってほしいね。

 第1戦では阪神・金本監督の信念を見た。「超変革」を掲げる今季の積極野球を体現していたね。昨年5勝を許した巨人の左腕ポレダの研究も重ねてきたのだろうが、特に素晴らしかったのが走塁面だ。1‐1の三回だった。先頭打者となった先発投手の藤浪が右前へ今季初安打を放ち、続く高山の右前打で三塁へ激走。さらに横田の投前内野安打で勝ち越しのホームを踏んだ。2点を勝ち越し、なお1死一、三塁。ゴメスはフルカウントから空振り三振を喫したが、一塁走者のヘイグがスタートを切り、捕手の小林誠が二塁へ送球したと同時に、三塁走者の横田が生還しての重盗成功。六回にはゴメスが二塁盗塁に成功した。

 走塁への意識を植え付けるのが一番難しいのが、中軸を張る外国人選手と投手だ。その点、エースである藤浪や外国人選手2人が率先して走る姿勢を示した価値は大きい。周りの選手は「自分たちももっとできる」と思っただろう。

 金本監督がどういう方法で選手に走塁の意識を植え付けたのかはわからないが、よい方向にいっている。選手のみならず、三塁の高代コーチは藤浪の走塁の場面で、しっかりと三塁まで向かわせた。監督のやりたい野球がコーチにも浸透している感じを受けるよね。40歳代の監督が多くなったが、一番大切なことだ。

 
 昨年秋だったろうか。金本新監督誕生前だったと思う。就任するかどうかの時期に、ご本人に会う機会があったが、人気球団の監督を引き受けるには「相当な覚悟がいる」と話していた。伝統を築き上げたOBがいる。球団、スタッフを含め、グラウンド外でもその伝統を支えてきた人たちがいる。監督が代わればすべて一新できるかと言えば、そうじゃない部分もある。だが、今年の阪神は金本監督の下、変革への強い思いを感じる。

 長いシーズン、必ず浮き沈みはある。積極性が空回りする時期も必ずある。だが、そのときこそ信念を貫いてほしい。金本監督ならできると信じている。積極性への意識が無意識のレベルにまで達するには、1年、いや、数年はかかる。

 一方の巨人。高橋新監督はどちらかというと選手主導型の采配で、選手自身が考える環境を整えているように感じる。昨年まで同じ選手としてプレーしてきたから、各選手が局面でどんな判断をするタイプなのかなど、性格面も熟知していると思う。繊細な変化や、微妙な成長も感じ取れる監督だ。金本監督とは一見、正反対のようにも映るが、選手それぞれのレベルや野球への成熟度によってアプローチは変わる。勝つために何が最善かを考える点では一緒。巨人は今オフ、野球賭博問題などに揺れ、選手は常に周囲から見られている。その緊張感も、集中度を高める良い方向に出ているように映る。

 人気球団の監督は、少しの失敗でメディアや世間の批判にさらされるが、両監督には、揺らぐことなく目指す野球を継続してほしい。

週刊朝日  2016年4月22日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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