作家・室井佑月氏は、政府から発表される統計データについて疑問を呈する。

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 以前、このコラムで、東京新聞1月20日付の「こちら特報部 首相が誇る数字の疑問」という記事を取り上げた。

 たとえば、賃金上昇について。政府が出してくる数字は、経団連調べによるもの。東証1部上場の従業員が500人以上の企業、約250社が対象で、大半が正社員の給料だ。

 中小企業も含めた厚労省の毎月勤労統計調査によると、2012年から実質賃金は減りつづけている。

 どちらの数字がこの国のリアルかは、いわなくてもわかるでしょ。この国の貧困者はじわじわと増えているのだし。

 こういう事実を適当にスルーしてしまう報道が悪い。

 政府が数字をあげてきたら、即座に「いえ、こういう数字もあるんです」、そう誰かが突っ込まなければ、ニュースとして成立しない。政府の発表する数字だけを垂れ流すものを読まされる、または見せられるなら、その情報を知らないほうがマシだ。実際の自分の感覚として、景気が良いか悪いか判断したほうがいい。

 こういうことはまだまだある。最近、あたしが気になるのは、「国民に安保法制の理解は広がってきている」というような話題だ。菅義偉官房長官などが会見で、はっきりそういっているのを聞いた。

 
 ほんとうか?と思っていたら、あたしの疑問に答えるような記事をネットで見つけた。4月1日付の「リテラ」というネットニュース。

「安倍政権の『国民に安保法制への理解が広がっている』は大ウソ! 根拠は“応援団”産経のインチキ世論調査だった」

 菅官房長官や、3月29日放送の「NEWS23」(TBS)に出演した自民党の小野寺五典・前防衛相の発言が取り上げられていた。

 小野寺さんは、

「実は、法案成立のときは、賛成3割、反対6割だったのですが、直近の調査では賛成6割、反対3割になっています」

 そうテレビでいったらしい。が、それは嘘だという。リテラは、最近の共同通信による全国電話世論調査(3月26、27日)、毎日新聞による電話世論調査(3月5、6日)、読売新聞の電話調査(3月4~6日)の数字をあげる。いずれも安保法を「評価しない」が「評価する」を約10ポイント差で上回っているのだった。

 そして、菅官房長官や小野寺さんのあげる数字の根拠は、3月19、20日に産経新聞とFNNが合同で実施した全国電話世論調査だけだと結論づけていた。しかも、調査の質問の仕方がおかしかった。安保法制にからめ、まるで自衛隊が必要か否かと聞いているようにも取れる。

 これからもバッジをつけた人がテレビ画面の前で、数字を述べることはあるだろう。そのとき番組側は、別の見方の数字を用意して、即座にその場であげないとダメなんじゃないの? 一方通行の発言をだだ漏れさせることを、偏向報道というんじゃないの?

週刊朝日 2016年4月22日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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