作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。ある対論集会に出席したという。

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 先日、田中美津さん、長谷川三千子さん、想田和弘さんの対論集会が行われた。安倍政権に危機感を持つ田中さんと想田さん、そして安倍政権のブレーンといわれるNHK経営委員会の長谷川さんの組み合わせだ。

 長谷川さんと言えば、フェミ嫌いな人、という印象が強い。80年代の男女雇用機会均等法のときも、90年代の男女共同参画社会基本法のときも、女性の社会進出を推進するフェミを批判してきた。最近では少子化問題について「日本の若い男女の大多数がしかるべき年齢のうちに結婚し、2、3人の子供を生み育てるようになれば、それで解決です」(2014年1月6日付産経新聞)といった発言が、話題になった。

 そんな長谷川さんと、日本のウーマンリブの先駆者である美津さんの対論だ。

 そもそもこの会を企画したのは、美津さん。美津さんのHPには「そういえばアベ政権支持者のお考えって、まともに聞いたことがないなぁと気がついた」とある。私も同じだ。時には違う考えの人の言葉に耳を澄まし、真摯に対話することも必要よね、と私も思う。わくわくする気持ちで会場に向かった。

 結論を言えば、いろんなことが「わかる」ような気持ちになった会だった。

 
 長谷川さんは、ご自身の生い立ちを丁寧に話した。ご存知の方も多いと思うが、長谷川さんの祖母は野上弥生子だ。しかも両親をはじめ親戚ほとんど全員が教育者や研究者というエリート一家で、当然、長谷川さんも「女の癖に!」などという下品な教育は一切受けなかった。父や母からは「勉強は何が好き?」と聞かれる環境で育ち、小学生のときに「平凡な主婦にはなりたくない」という作文を書いた話なども、披露してくれた。

 意外だったのは、長谷川さんの子育ての話だ。仕事に集中したいのに子育てに時間を取られる悔しさを、こう表現していた。「私はGIレースに出るサラブレッドの牝馬みたいだったの。鼻息が荒くて」。それほど意欲も能力もあったのに、時間がなかったことが苦しかった……と。

 あっけにとられ、思わずメモを取る手が止まった。いや、長谷川さんが子育てに苦労したから、ではない。自分をサラブレッドに例える女に私は初めて出会ったのだ。女の問題の一つは自己肯定感の低さとも言われている。サラブレッドに自分を例えられるその深い肯定感に、私は震えた。教育って大事だわ~と笑いながら頷いてしまった。さらに長谷川さんは結婚生活が「チョー、恵まれていたわけ」と仰っていた。言葉遣いがラフで、それもイメージと違って驚いたのだけど、夫と毎晩シコを踏んだりなど、楽しい結婚生活を送ったことを打ち明けながら、「私は1億人に1人の幸せ者だった」とも仰っていた。……長谷川さん……それじゃ世界中に数十人しかいないよ……と思いながら、私は少しずつ長谷川ワールドを楽しみはじめていた。

 それにしても長谷川さん、なぜフェミ嫌い?

週刊朝日  2016年4月15日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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