同年6月、相川さんの口座に1億3515万円が振り込まれた。相川さんは目を丸くしながら言う。

「こんなことが本当にあるんですね。父から相続したのは土地ばかりだったので、現金は本当に助かりました。今後払う固定資産税や子どもたちへの相続もあるため、なるべく手をつけないまま残しています」

 専門家でも、大きく違う土地の評価。背景には評価の「複雑性」がある。

 相続税申告における土地評価は、基本的に「路線価」×「面積」で計算される。しかし多くの土地は個性豊かで、単純にそれで求められるものではない。形が悪かったり(不整形地)、騒音がひどかったり、著しい高低差があったりといった“減額ポイント”がある。

 不動産に関する法律も、都市計画法、建築基準法、農地法、森林法などさまざまで、それらを熟知していないと“最下限の評価額”にならないのだ。

「税理士は税のプロ。それらは知っているはず」と思う人もいるかもしれないが、税理士の多くは相続税(土地評価)に明るくない。

 税理士試験では簿記論と財務諸表論は必修で、相続税法は選択科目だ。つまり学ばなくても、税理士になることができる。実際、相続税法は複雑でボリュームも大きいため、選択する人は1割程度といわれている。

 東京都内に事務所を構える、いわゆる会計専門のベテラン税理士は「税理士も得意と不得意がある」としたうえで、こう指摘する。

「私のところにもたまに相続税の依頼がきますが、断っています。詳しくない人がやると顧客に迷惑がかかるのがわかっているから。でも残念ながら、専門でもないのに受けてしまう税理士はいる。そもそも相続税の申告期限は、相続発生からわずか10カ月しかない。土地評価を深く掘り下げないまま、シンプルな計算で相続税を算出する人がほとんどだと思います」

週刊朝日  2016年4月15日号より抜粋