プロ野球の2016年シーズンが幕を開けたが、昨季の優勝チームに勢いがない。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、他の球団は自信を持って戦ってほしいという。

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 パ・リーグでは3年連続日本一を目指すソフトバンクが、昨年のような圧倒的な強さを発揮できていない。セ・リーグは昨年の覇者であるヤクルトが連敗スタート。開幕直後の今の段階でペナントレースの行く末を占うことはできないが、優勝候補である両チームは、ともに投打の歯車がかみ合っていないと感じる。

 ソフトバンクの試合は開幕戦から見ているが、投打ともに本調子になるまで少し時間がかかるかもしれないと言ったほうがいいかな。

 投手から見てみると、開幕戦となった楽天戦でエースの摂津正が打ち込まれ、4戦目で5年ぶりの日本復帰戦となった和田毅も西武打線に打ち込まれた。いずれも23歳の山下斐紹がバッテリーを組んだ。しかし、ベテラン投手に対し、どうやって配球を組み立てていくか、まだ手探り状態であると感じた。

 和田については、立ち上がりが素晴らしかっただけに、6回を投げて10安打されたのは、配球に問題があったのだと思える。打たれた安打はすべて左翼から中堅方向。右方向への安打はなかった。右打者には内角に入ってくる球を引っ張られ、左打者には外に逃げる球を左翼へ運ばれた。

 和田は左腕だが、もともと左打者に打たれる傾向があった。それは懐に食い込んでくるシュート系の球が少ないからだ。だから打者は踏み込みやすい。外角の直球にしても、スライダーにしても、安心して踏み込める。もともと球威があるほうではないだけに、対応はしやすい。他球団のスコアラーにとっても、西武打線の打撃は和田攻略のヒントとなったはずだ。

 
 カード頭のベテラン2人が打ち込まれたことは、チームに微妙な影響を与える。若手捕手を育てようとの工藤公康監督の意図もわかる。だが、この2投手が軌道に乗ってこないと、安定して白星を積み上げていくことはできない。いかに配球面で呼吸を合わせていけるかがかぎだ。

 打者陣に目を移すと、開幕前に指摘したように、やっぱり李大浩が抜けた穴は大きい。5番を日替わりで起用しているあたりも、工藤監督の試行錯誤がみてとれる。昨年は3番の柳田悠岐から6番の松田宣浩までは、ほぼ固定できた。強固な中軸があったから、相手投手によって1、2番と下位打線を組み替えるだけでよかった。今季は5番を決められないので、打線がつながってこない。

 相手投手の立場からすれば、柳田や4番の内川聖一に出塁を許しても、5番でひと息つける。これは大きい。ソフトバンクの投手にも、野手にも、今年はつけいる隙がある。工藤監督も就任2年目となって、難しい決断を下さないといけない場面が増えるだろう。投打を軌道に乗せるのが遅れれば、チャンスは他球団に回る。対戦する球団は「昨年までと違う」という自信を持って戦ってほしい。

 昨年のセ・リーグを制したヤクルトは、それまで2年連続で最下位だった。「優勝チーム」として悠然と構えていては、負けが込んでしまう可能性がある。打線は各球団から研究されるし、投手陣も全員が好調を継続するとも限らない。本調子ではない今、「いつかはよくなるだろう」と楽観していると、手遅れになる恐れもある。早めに対策に乗り出してもらいたい。

週刊朝日 2016年4月15日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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