全盛期の田中角栄氏 (c)朝日新聞社
全盛期の田中角栄氏 (c)朝日新聞社

 本屋さんに行くと、「田中角栄」を書いた本がずらりと並んでいる。もう二十三回忌もすぎたいまごろになって、元首相に何が起きたのか。朝日新聞政治部で「番記者」を務めた早野透氏が自身の体験とともに、当時を知る人物たちに角栄の魅力を聞いた。

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 忘れられないのは、北海道出身、早稲田大学で左翼運動に投じ、東京タイムズ記者から角栄に見込まれて秘書に転じた情熱家、早坂茂三のことである。

 ロッキード事件以後、「目白の闇将軍」として政界の裏に君臨する角栄の秘密の場面に、早坂さんは私を折々立ち会わせてくれた。角栄病後、『政治家 田中角栄』『オヤジとわたし』などの硬軟両様、膨大緻密な著作は、金権角栄への世間の非難に抗して、今日の角栄再評価につなげた。

 角栄とかかわった人たちの思い出本、それから、褒めるにせよ叩くにせよ角栄に惹かれたライターたちの評論が次々出て、「角栄レジェンド」は世紀を超えて引き継がれていく。

 いったい、田中角栄はなぜ人々の心を捉えるのか。政界の知性派、かつて自民党を離党して細川護煕「非自民」政権を支えた田中秀征さんに聞いてみた。

「私が何度も落選を繰り返してやっと当選したとき角栄さんはそれを知っていて、きみが秀征かと声をかけてくれたんですよ。角栄さんが脳梗塞で倒れて東京逓信病院に入ったときは花を持ってお見舞いの記帳をした」そうだが、私の苦労をわかってくれたのは角栄さんが「創業者」だったからだよ、と解説する。

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