「呼びつけた学者が集団的自衛権行使を『違憲』と断じた昨年6月の衆院憲法審査会と同じですよ。とりあえず有名な学者を呼んで格好つければいいと思っていたところが、まさかの事態になった。当然この安倍首相のオフレコ発言を含む議事録はニュースになりますから、世界に知られる。官邸が日本を貶めているようなものです」

 さらにスティグリッツ氏の英文資料をみると、QE increased inequality,とあるが、▼事務局訳は<量的緩和政策は不平等を拡大した>。

「事務局訳では、意図的に“inequality”の訳語を、不平等としています。アベノミクスにとって都合いい箇所では『格差』としていながら、不都合な所では『不平等』を使う。これは『格差』がテレビ局などが強い関心を寄せる単語だからでしょう。あえて避ければ、目に留まらずスルーされやすい。『金融緩和は格差を拡大した』とスティグリッツ教授は一刀両断しているのですが、意図的に変えているのだと思います」(田代氏)

 本誌おなじみのご意見番にも聞いてみよう。経済アナリストの中原圭介氏も呆れて言う。

「昨秋の段階で欧米の論調はすでに『アベノミクスは失敗』となっていました。そもそもアベノミクスは事あるごとに『クルーグマン氏が言っているから』と説明してきたはずです。クルーグマン氏が『やれ』と言ったものではないですが、安倍政権と日銀が論拠にしてきた経済学者です。今回はその本人が自説の間違いを認めたも同然。学者として矜持は持っており、潔いとも言えます。今回、アベノミクスの根拠が崩れ、経済政策は考え直す時が来ている。だが選挙があるのでそれができない。安倍首相はよく相手を攻撃する際に『思考停止』という言葉を使いますが、停止しているのは自分たちでは」(本誌・鳴澤 大、林 荘一)

週刊朝日 2016年4月15日号より抜粋