「愛人」という言葉には背徳のにおいがする(※イメージ)
「愛人」という言葉には背徳のにおいがする(※イメージ)

 社会風俗・民俗、放浪芸に造詣が深い、朝日新聞編集委員の小泉信一が、正統な歴史書に出てこない昭和史を大衆の視点からひもとく。今回は「愛人バンク」。80年代初頭に一世を風靡した“男女交際仲介業”だ。20代の女性オーナーはテレビ番組などでもてはやされ、ちょっとした有名人だった。さらに当時すでに「援助交際」という言葉が存在していた。

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「愛人」という言葉には背徳のにおいがする。それをビジネスと割り切ったのが、1980年代前半に出現した男女交際仲介業「愛人バンク 夕ぐれ族」である。最盛期には全国から約5千人もの男女が会員になったというのだから、大きな社会現象だった。

 高度成長から高度消費社会へと移り変わろうとしていた時代である。コピーライターの糸井重里さんが考案した百貨店のキャッチコピー「おいしい生活。」が大衆の心をつかみ、ブランド品があふれた。都会の風景は変わりつつあった。「愛人バンク 夕ぐれ族」を取材した風俗ライターの伊藤裕作さん(66)は語る。

「1982(昭和57)年の暮れ、夕ぐれ族の女性オーナーに会いました。そのときは『愛人バンケット(宴会、祝宴の意)機関 夕ぐれ族』と称していました。なんだか語呂が悪く、ダサイ。『愛人バンク』にしてはどうかと僕が提案したのです」

「筒見待子」と名乗る(後に偽名と判明)女性オーナーは、小冊子を持参していたそうだ。そこには女性からのこんなメッセージが書かれていた。

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