「一夜で1ドル250円」日銀総裁が実行すれば強力な経済政策に?
連載「虎穴に入らずんばフジマキに聞け」
もちろん、私が日銀総裁になるなど「夢のまた夢」である。しかし、私の言いたいことは、「総裁が強烈な<円安論>を持っていれば、マーケット参加者はついてくる」ということだ。速水優元日銀総裁が昔、「円高論者」であったことはマーケットの常識であり、その概念にマーケットは縛られているということもある。マーケットとは、そういうものなのだ。
ちなみにこの本では「大幅円安を進める」他の方法として「マイナス金利政策」も書いた。「数年前、マイナス金利政策論をぶちあげたら、笑い飛ばされて終わってしまった。(中略)このような世界になれば、円をドルに換えようという人も急増する。ドル預金をすれば利息が入ってくるのに対し、円預金をすれば利息を取られてしまうからである。日米の金利差は今と変わらなくても、『貰うから払うへの変化』は人々の心理状況を激変させるであろう」
3月2日付の日本経済新聞に紹介されたフィナンシャル・タイムズ(FT)の「マイナス金利の限界」という記事の中にも、「(マイナス金利政策は)その代わり、為替レートには大きく影響する。当事国にとって魅力的だが、(後略)」とある。FTも「マイナス金利政策は円安に効く」と断じているわけだ。
円安を誘導する方法は他にいくらでもある。円安誘導は、お金を使わずにできる、安上がりで最も強力な経済政策だ。それなのにそれを理解していないこと、そして「為替は動かせない」と思い込んでいることが日本の経済政策の誤りだ。だから日本は効果の少ない過激な財政出動に頼りすぎ、財政危機に陥ってしまったのだ。
※週刊朝日 2016年4月8日号
藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中