人工膝関節置換術は、すり減った軟骨や傷んだ骨の表面を切除して、金属やプラスチックでできた人工関節を埋め込む手術だ。ひざの片側半分のみにおこなう部分置換型と、ひざ全体を人工物に置き換える全置換型がある。入江さんの場合、ほとんどの軟骨がすり減っているため、全置換型の手術となった。

「術後、痛みもなく、ちゃんと歩けるようになるためには、正確に骨を切り、適切な位置に人工関節を設置する必要があります。入江さんの知人のように、『手術を受けたのに、ひざの痛みがとれない』『手術をしたのに、歩きにくい』などと訴える人の多くは、適切な位置に人工関節が入っていないからなのです」

 と杉本医師は説明する。

 これまで人工膝関節置換術では、太ももの骨に開けた穴から金属の棒を入れて、埋め込む人工関節の角度を決めていた。しかし骨を数ミリ単位で正確に削り、人工関節を正しい角度で埋め込むには、術者に豊富な経験や技量が求められる。

「そうした術者の技量をカバーするのが3Dプリンターを使った手術。患者さん個々の骨モデルを作成し、手術をアシストするのです」(同)

 この方法では、まずCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)などで股関節から足首までの骨の画像を撮る。そして画像データをもとに、3Dプリンターで関節部分の骨を立体的に作成する。さらにその骨モデルをベースにして、一人ひとりの関節に合った特注の器具「骨切りガイド」を製造する。実際の手術では、そのガイドを患者の骨や関節に固定して、骨を切除する。

「ガイドを使うことで手術の精度が上がり、手術時間も短縮できます。使用する手術器具も少なくできるので、からだへの負担や合併症のリスクも減らせます」(同)

 入江さんの手術は約1時間で終了。入院期間は2~4週間と個人差があるが、入江さんは手術の翌日から歩行訓練を開始。術後2週間で、自分の足で歩いて退院できた。

「3Dプリンターを使うこのやり方は、医師にとっても患者にとっても、安心サポートシステムのようなもの。これがなければ手術ができないというわけではありませんが、失敗のリスクが大幅に減らせます。このシステムを導入する病院は全国で少しずつ増えてきています」(同)

週刊朝日  2016年4月1日号より抜粋