作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏はラグビー日本代表の五郎丸歩選手が登場するCMに感動したという。

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 最近は書店に行かず、ネットで本を買うのが習慣になってしまっている。新しい作家との出会いを求めて書店で過ごすようなことを久しぶりにしたくて、近所の書店に立ち寄った。

 ……で、びっくりしました。都内のフツーの本屋です。実用書や話題の本を中心に並べる街の本屋です。そこで私は見てしまいました。エロ漫画のコーナーに、オナホ(男性向けのマスターベーショングッズ)が置かれていたのを。

 その時の私の複雑な感情を何と表現すればいいでしょう。経営者がアダルトグッズに手を出さざるを得ないほど、書店に通う人が少ないのか!?という自戒の念。岩波文庫とVOGUEの間に、エロ漫画とオナホが置かれていることのシュール。でも何よりも驚愕したのは、そのナチュラルさでした。それはまるで、鉛筆を買うなら消しゴム必要ですよね、ケータイ買うなら充電器必要ですよね、エロ漫画買うならオナホ必要ですよね!とでもいうさりげなさで、世界広しと言えど一般書店でエロ漫画(しかも幼い女の子に欲情する)とオナホが並んで売られているのは、日本だけではないでしょうか。男性のエロに寛容で、過保護で、節操なくどこででもサービス可能な日本社会ならでは。

 こういう社会で女たちは片目をつむるのが上手くなるな、と思う。私などは驚きのあまりオナホの前に立ちすくんでしまったけれど、フツーは「目に入らないように」振る舞う女性が圧倒的だろう。ポルノチックな映像や文言が街中でフツーに目に入る社会で、「男の人は男の人だから仕方ない」と諦めるのは生き抜くための一つの技だから。

 
 先日、デンマークのバイブメーカーの女性と話す機会があった。デンマークは男女平等指数が高いことでも知られているけれど、アダルト産業で働く女性も多く、そもそもグッズを買うのも男性ではなく女性のほうが多いという。印象に残ったのは、こんな話だった。性的なことは日常のリアルな生活の中にあり(街中でうっかり出会うものでなく)、女性が自信と安心感を持って楽しめるものであり(目をつむるものでなく)、平和なものであり(暴力ではなく)、幸福に導くもの(怒りではなく)。( )の中は全て私の声です。あ~あ、そういう世界に行ってみたいな~、と考えてた矢先……日本で見つけました!

 花王ビオレuのHPを、ぜひチェックしてください~。五郎丸が上半身裸で赤ちゃんと触れあい笑う天国、ではなくCMです。テレビCMに加え、撮影時の様子が短い映像でたくさん紹介されていて天国感いっぱい。赤ちゃんを抱っこする五郎丸! 白い泡に包まれる五郎丸! 私は見た途端叫んでしまいました。これだよこれ! 平和で優しい世界を描くことが、女にとってのエロスになるリアルだよ!と。

 暴力や差別や淫靡さをエロとして捉えていてはなかなか見えない、天国的なエロスの可能性。そんなことを考え、またもや五郎丸さんに助けられた気分です。ありがとう、五郎丸!!

週刊朝日 2016年4月1日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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