「私が午後4時半に、25ミリロープを掛けて固定していますから、2人は明らかにウソをついている。染谷さんの水難事故はすぐ周辺に知れ渡ったので、様子を見にきたのではないか」

 というのは、なずき丸には不審な形跡が残されており、スクリューのプロペラが何者かに破壊されていたからである。さらに、スクリュー上の船尾の縁に泥の足跡が残されていた。

「前日の航行では何も異常はなかったので、翌朝までに壊されたのでは。スクリュー部分は45度以上持ち上がるので、海に潜らなくても破壊工作は可能。海保は染谷さんが岩礁にぶつけたのではないかと言うが、海事鑑定業者に私たちが鑑定依頼したところ、『航海中以外に何らかの外部の力によって折損したもの』との結果が得られた」(前宮氏)

 実際、抗議活動を快く思わない者たちはいるようだ。係留ロープが緩められるなどして、何度となく抗議船が流されそうになっており、漁師が阻止してくれたこともあった。汀間漁港の支部長が首を傾げる。

「あの堤防は、ここの組合員ではなく他から来た船も留める。(不審な男らの)素性はわからないです」

 漂流工作で染谷氏の事故を誘因したとすれば、“未必の故意”では……。

 海保の対応も不可解な点が多いという。染谷氏の死体検案書を見ると、死亡の原因欄に「溺死(推定)」とありながら、司法解剖を実施していない。法医学者で作家の上野正彦氏に見解を聞いた。

「沈んでいれば溺れて大量の水を飲んでいる。浮いていたのなら、おそらく心臓発作を起こした可能性が高い。もちろん死亡後、海に遺棄された死体は浮く。推定で溺死としているが、死因を究明するために司法解剖を行う。海保は公平性を保つためにも、解剖を実施するべきだった」

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