自らが「前例」となって…(※イメージ)
自らが「前例」となって…(※イメージ)

「重度の身体障害があるけれど、京大でカウンセリングや心理について学びたい。障害のある人を支えたいんです」

 京大の特色入試で教育学部に合格した油田(ゆだ)優衣さんは、そう力強く語る。生まれつきの脊髄性筋萎縮症。全身の筋力が低下する難病で、ペンを握る手にもあまり力が入らない。日常生活には全て介助が必要だ。

 小学校は自宅近くの公立小に入学。だが、体調が不安定で小2から中3までは特別支援学校へ。周囲の障害への理解は深かったが、お互いの障害について深く立ち入ることはタブーという雰囲気を感じたという。

「地域とのかかわりはほとんどなく、狭い世界でした」

 そんな窮屈さを振り払うように勉強に打ち込んだ。小4からは通信教育も始めた。次第に、同封の漫画に描かれる「普通学校での生活」に憧れを抱くように。

「もっと広い世界に出たい。普通高校に進学したい」

 思いは強くなっていった。だが、立ちはだかったのは「前例なし」という言葉。それまで地域で全介助が必要な生徒が、普通高校に進学した例はないといわれたのだ。油田さんは県立京都(みやこ)高(福岡県行橋市)の協力を得ながら、県教育委員会や自宅がある福岡県苅田町(かんだまち)などと粘り強く交渉し、理解してもらい、学びやすい環境を確保した。

 そのときの体験は、中学卒業を前に参加した「イングリッシュコンテスト」のスピーチで紹介し、最優秀賞を受賞した。

 高校入学後は、自分から進んで病気のこと、介助が必要なことなどを話した。3年間担任だった開田(ひらきだ)涼子教諭は、こう振り返る。

「明るい性格で、すぐクラスになじんでいましたね。前向きな努力家で成績優秀。授業に集中し、わからないことは納得いくまで質問する生徒でした」

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