「トランプ氏は『日本や韓国などを守ることはできない』と公言していて、米軍駐留経費の負担増や日米安保の不平等性を何度も言っている。首相官邸、外務省だけでなく、米国の日本大使館もトランプ氏とのパイプがない。みんな困っているのが実情です」

 冷や汗ものなのは、外交上のパイプにとどまらない。大統領になれば、日本の生命線に危機も忍び寄る。中東の原油やエネルギー安全保障に詳しい専門家は言う。

「もしトランプ氏が大統領になり、偉大な米国うんぬんとか言って、中東へ一気呵成に地上部隊を送り込み、IS掃討などマッチョな解決に乗り出そうものなら、当然、日本に『お前も石油輸入してるだろ。手を貸せ』となる。イラク戦争に懲りたイギリスが派兵に慎重になっているので、あんな安保法をつくった日本は飛んで火にいる夏の虫。もはやノーとは言えないでしょう。陸上自衛隊などの自衛隊派遣が浮上する可能性がある。力ずくに出た結果、中東の戦争が拡大すれば、今安い原油も跳ね上がります」

 日本は、在日米軍への思いやり予算で1920億円(2016年度予算案)を計上し、米空軍嘉手納基地、米海軍横須賀基地など軍施設も提供して米軍の世界戦略を支えている。だが、安倍晋三首相ら政権側が安保法制の審議で繰り返した「日本は米軍を守れない」という発言がそのまま届いてしまったかのようだ。前出のジャーナリストが言う。

「政府高官のひとりは『シリアなんて危なくて出せない、せいぜい周辺国で後方支援だ』と言うが、甘い。日本にとって未知の世界。米大統領が北朝鮮に空爆、シリアに地上部隊派遣といって集団的自衛権の行使を解禁する日本が断れるのか。ホントにやばい」

 トルコのエルドアン大統領、ロシアのプーチン大統領らコワモテ首脳とはウマが合う一方、オバマ米大統領(民主党)とはギクシャクしてきた安倍首相。共和党のトランプ氏ならうまくつきあえそうだが、その主張は共和党主流派から外れている。トランプ氏はかつて民主党員で、ビル・クリントン元大統領に献金していたというから、安倍首相は心の底で共感できないかもしれない。中部大学国際人間学研究所の河内信幸副所長(米現代史)は、トランプ氏のタフさに注目する。

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