「07年ごろの高校生はやりたいことや夢が大切で、それがないと進学先を選べなかった世代です。それがリーマンショック、震災を経て、夢どころではなくなり、高校生の価値意識が大きく変わりました。将来不安が深刻化するなかで、資格や安定を求める傾向が強くなってきました」

 アベノミクスで景気回復への期待感が高まった14年に実施した調査でも、資格取得の意向は下がるどころか上がっている。

「たしかに新しいことにチャレンジしたい、成長できる仕事をしたいといった前向きさは見られるようになりました。しかし不況の時代に育った高校生には、手に職をつけて安定した生活をしたいという思いも同じように強くなっているのです。また、とくに地方では景気回復の実感が薄かったことも影響しているのでしょう」(小林所長)

 では手に職をつけるには、どの大学がおススメなのだろうか。本誌は、大学通信、大学ランキング編集部の協力を得て、国家試験や採用試験の合格が条件となる14の職種や資格について、就職者数・合格者数の最新データを収集。それぞれトップ10にまとめた。

 小・中学校教員は国公立大、管理栄養士は女子大、薬剤師は薬科大、警察官や消防官はスポーツが強い大学が多いなど、それぞれランクインする大学の顔ぶれには特徴がある。地方公務員では日大や早稲田大といった規模の大きい総合大学が上位だが、全般的にはそれぞれ職種や資格に特化した単科系の大学が目立つ。

 総合大学が少ないせいもあるが、一般には認知度の高くない大学も多い。「新しい大学が多いのも一因」と、教育ジャーナリストの小林哲夫さんは指摘する。

「高校生の短大離れ、専門学校離れが進んだこともあり、短大や専門学校がこの10年、20年ぐらいの間に相次いで4年制大学に衣替えしています。元来強みだった地元の就職先とのネットワークなど、当時の財産をそのまま大学に引き継いでいるため、就職や資格取得で高い実績を上げているのです」

 さらに、専門学校が得意分野としていた資格領域に、戦略的に進出してくる大学もあるようだ。

「たとえば理学療法士、作業療法士などの資格は、従来、医療系専門学校が中心でした。しかし、社会のニーズが高い分野を中心に、少子化で危機感を持つ大学が新たに参入し、専門学校の領域を侵し始めています」(小林哲夫さん)

 かつては専門学校で手に職をつけるべきか、それとも大学に進学するべきか、という決断に悩む人も多かった。しかし今は、より高度な資格を取得する志向も高まり、大学で手に職をつけるのが当たり前になってきたというわけだ。

週刊朝日 2016年3月11日号より抜粋